戦争の焦点は「ウクライナ軍のクリミア奪還作戦」へ 小泉悠×河東哲夫・超分析
THE DECISIVE SEASON AHEAD
昨年10月にはケルチ海峡に架かるクリミア大橋が爆破され、ロシア軍にとって痛手に REUTERS
<戦争の「天王山」はクリミア半島、セバストポリの軍港が核使用のきっかけに!? 日本有数のロシア通である2人が対談し、ウクライナ戦争を議論した>
※本誌2023年4月4日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集に掲載した10ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。
※対談記事の抜粋第1回:小泉悠×河東哲夫・超分析「仮に停戦してもウクライナが破る可能性もある」 より続く。
――今後、作戦の展開がどうなっていくかが1つの大きな焦点です。ウクライナ軍はクリミア半島の奪還を目指すでしょうか。
■河東 クリミアが今、実際には一番大きな問題だと思います。ロシア軍がクリミアを守るための補給路が非常に「細く」なっている。主として2本あるのですが、1本は(昨年10月に)爆破事件があったケルチ海峡の橋。あれはまたいつ爆破されるか分からない。
もう1本はクリミアの西のほうから陸路、陸橋を伝っていくのですが、そこに行くまでにはウクライナの南端をロシア軍が獲(と)らなければいけない。しかし(11月に)ヘルソンから撤退したことで占領地域はかなり失われている。
その結果、クリミアに武器や兵士を持ち込むためのルートがずいぶん危うくなってきた。とすると、ウクライナ軍は春になったらクリミアを獲るために仕掛けるかもしれません。盛んにそう報道されています。
■小泉 私もクリミア奪還の可能性はあると思っています。政治的に2014年の(クリミアとドンバス地方を奪われた第1次ウクライナ戦争前の)所まで国境を戻すという断固たる意志の表現にもなるし、プーチンのロシア国内向けの正当性に大打撃を与える効果も期待できる。
昨年8月以来、ゼレンスキーは「クリミアを取り戻す」とはっきり言っていますから、視野のどこかにはあると思います。
ただし、ヘルソン州の東側、またはザポリッジャ州を取り戻さないと、(ウクライナ軍は)クリミアを攻めるルートがない。そのため、まずウクライナ南部の領域を奪還できるかどうかが注目点になります。
それをやるには、まず東部でロシア軍の激しい攻撃を耐え切る。なおかつその耐え切る過程で2つのタスクがあり、1つはロシア軍に対して出血を強要することです。なるべく多くの兵力を集めさせ、そこで損害を出させる。もう1つは、自分たちの損害は抑えて、来年の春以降の反攻に使うための予備戦力を保持する。これは結構難しいタスクです。
今、ウクライナは「バフムートでは7対1でロシア側に損害を強いている」という言い方をしている。イギリスの報告書などは5対1ぐらいではないかと言っているが、本当にこれらの割合が正しいならば、そのタスクが達成できる可能性がある。
今年の初め頃からロシアの軍事専門家たちは、ウクライナが3個軍団を新しく再編中なのではないかと警戒しています。軍団の編成は国によって違いますが、1個軍団は複数の旅団・師団から出来ていて、(ウクライナの場合)2万5000人くらいの編成。この2万5000人編成の軍団3つを西部で再編していると言われています。