国際関係論の基礎知識で読む「ウクライナ後」の世界秩序
THE POTENTIAL FOR CONFLICT
多極体制が不安定なのは、各国が複数の潜在的な敵対勢力に留意しなければならないからだ。米国防総省は現在、ヨーロッパでロシアと、インド太平洋で中国との同時衝突の可能性を懸念している。さらに、ジョー・バイデン米大統領はイランの核保有を阻止する最終手段として、武力行使の可能性は残されていると語っている。3正面作戦もあり得ない話ではない。
誤算による戦争の多くは、国家が敵を過小評価した結果だ。相手の力や戦う決意を疑って試そうとする。そのとき敵が虚勢を張れば、大きな戦争に発展しかねない。
アメリカの「相対的な」衰退
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナとの戦争は簡単に終わると判断を誤り、計算違いで侵攻した可能性がある。一部のリアリズム論者は、ロシアによるウクライナ侵攻が迫っていると、以前から警告していた。ウクライナ戦争がNATOの垣根を越えて、米ロの直接対決に発展する可能性はまだ残っている。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、台湾をめぐって計算を間違えるという危険もある。中国が台湾に軍事侵攻した際の対応について、バイデンは台湾を守ると語り、米政府はこれを否定して「戦略的曖昧さ」を維持すると強調している。これに多くの指導者が混乱し、習も台湾を武力攻撃しても何とかなると計算違いをするかもしれない。そうなれば習を阻止するために、アメリカは暴力的に介入せざるを得なくなる。
イランの核開発については、歴代の何人もの米大統領が非難し、「あらゆる選択肢を検討している」と脅してきた結果、イランはアメリカは対応しないとみて核保有に突き進むかもしれない。イランがバイデンの決意を誤解すれば、戦争に発展する可能性もある。
さらに、現実主義者はパワーバランスの変化にも注目して、中国の台頭とアメリカの相対的な衰退を懸念している。権力移行論によれば、支配的な大国が没落して新興の挑戦者が台頭すると、しばしば戦争に発展する。この「トゥキディデスの罠」に米中が陥っているのではないかという見方もある。
中国やロシアの機能不全に至った独裁体制は、彼らが近いうちにアメリカから世界の主導権を奪う可能性を低くしている。しかし歴史をよく見れば、挑戦者は拡大する野心を阻まれたときに侵略戦争を始める。第1次大戦のドイツや第2次大戦の日本のように、ロシアは衰退を逆転するために猛攻撃をかけているのかもしれない。そして中国も、弱いからこそ危険かもしれない。