子ども40人以上含む135人が亡くなったサッカー場圧死事件、初公判は異例の非公開に
催涙弾発射とスタジアムの設備が争点に
問題の事件は地元マランの「アレマ・フットボールクラブ」とスラバヤの「ペルセバ・スラバヤ」という1部リーグ好カードの試合後に発生した。ホームチームのアレマFCがペルセバヤ・スラバヤに2─3で敗れ、敗戦に怒り興奮した地元ファンを中心に多くの観客がピッチになだれ込み騒然とした状況になった。
当時ピッチ内の無秩序状態を統制、鎮圧するために複数の警察官がピッチ内の群衆やスタンドに向かって催涙弾を発射し、ピッチは大混乱となった。混乱したピッチのファンは催涙弾から逃れるために一斉に出口に殺到し、そこで将棋倒しとなり多くが圧死する悲惨な結果となった。この催涙弾発射の妥当性、的確な行動だったかが裁判の争点のひとつとなっている。
ジョコ・ウィドド大統領の指示で設置された事実関係調査チームは「警察官の無差別な催涙弾発射が混乱を引き起こした主因」との結論をだしている。
FIFAの規定でもサッカー競技場での騒乱対処法として銃器や「群衆を整理するためのガス」を使用することは禁止事項になっているというが、事件当日警備に当たっていた警察官や警備担当者はこうした規定を知らなかったという。
検察側は警察の現場責任者である被告が「結果に考慮することなく部下に催涙弾の発射を命じた。この無謀さが多数の犠牲者に死をもたらした」と主張して過失罪に当たると指弾した。
裁判では出口が狭かったことや一部の出入り口が施錠されており、ファンが逃げ場を失ったことから、スタジアムの管理、運営、設備に問題があったことも多数の死者を出した一因だとして「カンジュルハン・スタジアム」の責任者2人の過失も問われている。
問われるサッカー界の改革
インドネシアのサッカー界では1994年に現在のようなリーグ制が導入されて以来、ライバルチームのファン同士による試合後の乱闘などのケースで少なくとも78人が死亡していると監視団体は説明し、サッカーファンによる騒動がしばしば発生していることを指摘している。
またファン同士だけでなく、試合後に半ば暴徒と化して通行中の一般車利用に投石したり、商店のガラスを割ったりするなどのフーリガンによる違法行為もしばしば発生し、社会問題となっているが根本的な問題解決にはほど遠いのが実情だ。
こうしたインドネシア・サッカー界の体質を改善しない限り、今後サッカーに限らず国際的な競技大会の開催に向けて障害となる可能性も指摘されている。
今回の裁判ではそうした意味でも透明性、公正性を担保するために遺族らの傍聴、法廷のテレビ放映などを許可する必要があるだろう。次回公判は1月23日に予定されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など