長官はじめ全警察幹部400人超に辞表求める フィリピン麻薬汚染者を調査、問題あれば即クビに
ドゥテルテ政権の麻薬犯罪対策で超法規的殺人が許されていたが……。写真は超法規的殺人への抗議のダイイン。Romeo Ranoco - REUTERS
<超法規的殺人など強硬な麻薬対策を進めた国が今度は警察をターゲットに──>
フィリピンのベンフル・アバロス内務相は1月4日、国家警察の長官を含む幹部429人全員に対して辞表の提出を要請した。警察内部に潜む麻薬関連犯罪に「大ナタ」を振るうための措置で、辞表を提出した幹部に対しては特別に任命された委員会メンバーが個別に審査して麻薬犯罪への関与を見極めるとしている。
数カ月を要するとみられる審査期間中は職務を継続することはできるが、問題が発覚した場合、その幹部の辞表はそのまま受理され退職に追い込まれる。このため、警察幹部の間に巣食う麻薬関連問題を一掃できるとしており、ロドルフォ・アズリン国家警察長官も例外ではなく辞表を提出するという。
アバロス内務相によると辞表を提出した幹部警察官の審査に当たる委員会はマルコス大統領の承認を経て任命された5人の委員で構成される。この委員についてアバロス内務相は「委員は全員信頼できる人物である」としたうえで、外部や警察内部からの干渉や脅迫を受ける可能性があるとして委員の顔ぶれについては非公表としている。
アバロス内務相は麻薬問題で「身に覚えのある幹部警察官は辞表提出を躊躇する」可能性があり、その時点でも関与の有無が判断できる可能性があるとして今回の方針は有効な手段だとしている。
大佐以上の429人が対象
地元メディアの報道によると、国家警察は22万7000人からなる組織で幹部となる大佐クラスが293人、准将108人、少将19人、中将8人、大将クラスの長官1人の合計429人の幹部がいる。今回はこの大佐以上の幹部全員に対し辞表の提出が求められている。
4日にマニラ首都圏ケソン市にある国家警察本部で行われた行事に出席したアバロス内務長官は警察幹部に対して「辞表提出はショックだろうが、国家警察が新たなスタートを切る唯一の方法である」と理解を求めた。
アズリン国家警察長官は声明の中で「重要なことは内務相など上部機関を完全に信頼していることであり、そうした機関の評価に先頭を切って従う」と述べ、長官自ら陣頭に立って辞表提出に応じる姿勢を示した。
前政権時代は超法規的殺人が横行
今回の措置はマルコス大統領の肝いりで実現したが、ドゥテルテ前大統領時代は麻薬関連犯罪の摘発に力を入れるため、司法手続きなしで捜査現場での警察官による容疑者射殺という「超法規的殺人」が横行。米オバマ政権をはじめとする国際社会や人権団体などから大きな批判を招いた。
さらにオランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)も超法規的殺人が人道に反するとして予備調査に乗り出した。これを受けてフィリピンは2019年にICCから脱退している。