「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線
THE ANXIETY EPIDEMIC
冒頭で紹介したランデロスの娘の場合、セラピーは昨年3月15日の午後4時に始まった。セラピーを担当したエール大学のカーラ・マリン助教が選択したのは、最も標準的とされる治療法だった。それは認知行動療法(CBT)と呼ばれるものである。CBTは、不安を和らげるために最も有効な方法であることが臨床試験で明らかになっている。
この治療法は、症状の根底にある非合理で非生産的な思考や思い込みを洗い出して、それを克服し、そうした思考や思い込みと結び付いた行動を少しずつ、しかし着実に変えていくことを目指す。
CBTは、もともとは鬱の治療法として開発されたが、今日では心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物依存、摂食障害など、幅広い症状の治療に用いられている。さまざまな研究によると、CBTによる不安症の治療を受けた思春期の若者の3人に2人は、3~4カ月の治療により不安症が解消されるという。
マリンがランデロスの娘に行ったセラピーの中心は、エクスポージャー(暴露)のエクササイズだ。不安の原因にさらされることに、少しずつ慣れさせるのである。
「例えば、セラピーの場に招いた研究助手の前で自己紹介させる。あるいは、図書館で両親に頼らずに司書に本を探してもらったり、アイスクリーム店に行って自分で注文をしたりといった経験をさせる」
すると、昨年春のうちに、学校に登校できるようになった。最初は1日1~2時間だけ、その後は半日、そして最終的には丸1日、学校で過ごせるようになった。秋の新学年が始まる頃には、毎日学校に通えるようになっていた。
CBTに基づくエクスポージャーのエクササイズは子供だけでなく、過剰な不安にさいなまれている大人に対しても最初に選択される治療法だ。しかし、ほかにも有効性が実証されている治療法がいくつかある。
アクセプタンス・コミットメント療法(ACT)もその1つだ。これは、不安の原因となる問題や状況をあるがままに受け止め、自分が大切にしている価値──例えば、極度な不安を抱かず、平穏に生きることなど──を貫くよう促すものである。
不安な自分を受け入れる
「不安のかなりの割合は、自分の感情を受け入れていないことにより生じている」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のジェニー・テーツ臨床助教は言う。「受容は重要なスキル。自分が大切にしていることを行う過程で抱く思考や感情を受け入れなくてはならない」
テーツは、こうしたことを17年に自分自身も実践する必要に迫られた。家族と一緒にニューヨークからロサンゼルスに移り住んだときのことである。「先行きが不確実な状況を受け入れなくてはならなかった。不安を感じることは問題ない。それは別に間違ったことではないのだから」