【現地ルポ】「生き残りをかけた冬」...砲撃と酷寒を耐え忍ぶウクライナ最前線の生活
SURVIVING THE WINTER
支援活動を守る警察官たち
ライフラインが途絶えた人々の命綱である人道支援の車両が狙われたことを受け、グレイポーレの警察当局は対策に乗り出した。40人の部下を率い、陣頭指揮を執るのは署長のアレキサンドル・パブロビッチ(38)。町の実態を伝えるため、彼は警察の部隊が拠点にしている建物に筆者を招いてくれた。建物の位置や外観を秘密にしておくことが条件だ。
警察署の朝は7時45分の朝礼から始まる。自宅から通う署員はわずかで、多くは本部で寝泊まりしている。中庭に面した署長室を訪ねると、アレキサンドルの机のそばに大きな地図が貼ってあった。タイトルは「2022年6月6日から16日の砲撃」。砲撃を受けた区画29カ所が赤色でマークされ、それぞれ日付が書いてある。役場、学校、商店、集合住宅......。町の中心部にあった建物の半分ほどが、その11日間に破壊されたことが分かる。ロシア軍に徹底抗戦を挑み、陸の孤島となったマリウポリが陥落してから3週間後。ウクライナ南東部を完全に占領できたことで、ロシア軍は要衝の町にやりたい放題の攻撃を仕掛けたのだ。
「今年ロシア軍による侵攻が始まってから、この町で26人の民間人が殺されました。負傷者は46人です。子供にけがのなかったのがせめてもの救いです」
地図を前にそう語るアレキサンドルは、部下の1人が砲撃で負傷する事態も経験した。彼は目下の課題について、こう話す。「私たちが所管する地域にはいくつもの支援団体がやって来ます。支援物資が安全、かつ確実に住民に届くよう、警察官が警護して回ることにしました」
大きな体を揺らしながら語るアレキサンドルの表情から、伝説の民兵集団「ザポリッジャ・コサック」のDNAを受け継ぐ警察部隊の強い意志を感じた。
11月17日午前10時前、巡回中のパトカーに無線が入った。「誰か警備を担当できる者はいるか?」
グレイポーレに複数ある検問所の1つを人道支援の車が通過したとの連絡だった。無線を受けたのはいつもライフル銃を携帯している機動隊員のルスラン(23)。ここから100キロほど南にあるベルジャンシク出身で、ロシア軍に占領された故郷には祖母と母、姉がいまだ脱出できずに残っている。来年結婚を予定しているが、砲撃が絶えないグレイポーレへの異動を快諾して赴任した。