「お料理の高校生」にも読んでほしい、20代ライターの『死にそうだけど生きてます』
三日間かけて、朝も昼も夜も、ひたすら書きまくった。
こんなに真剣に文章を書いたことはなかった。
とにかく必死だった。
私が書いた文章のタイトルは、「私が"普通"と違った50のこと――貧困とは選択肢が持てないということ」だ。幼少期の生活、進学するにつれて気づいた周囲との違い、そこで感じたことを綴り、noteで公開した。(208~209ページより)
結果、1カ月を経て記事はどんどん拡散されていき、ツイッターの通知欄はパンク状態になった。「こんな世界を知らなかった」というような反響が次々と届き、多くの人たちが生活をサポートしてくれるようになっていった。そして、ライターとしても仕事ができるようになったようだ。
とはいえ、二〇二二年七月の現在もなお、貧困から抜け出したとは言い難い。今はオフィスワークのアルバイトで生計を立てながらライターをしている。手取りは、フルタイムで働き、十五万円から十七万円といったところだ。ライターとしての収入は平均二万円ほど。最近また、奨学金の減額申請をした。(中略)奨学金を完済する頃、私は何歳になっているだろう。(230ページより)
実を言うとここでは、著者の身に降りかかったトラブルをだいぶ端折っている。なにしろ次から次へといろいろなことが起こるので、すべて紹介していたら、それだけでかなりの文字量になってしまうからだ。
だが、不思議なことがある。
確かに明らかに悲惨なことばかりが起こり、そのたびに著者の苦悩もひしひしと伝わってくるのだ。だが、にもかかわらず、苦労話にありがちな自己憐憫的なニュアンスを感じさせないのである。
それはなぜか? おそらく、著者の真の強さのおかげだ。
「確かに大変そうだが、この人なら、きっとなんとかなる」と感じさせる力が、文脈から伝わってくるのである。
だから説得力があるし、貧困とか虐待とか、自分自身には非のないことで追い詰められている若い人こそ、本書を手に取ってみるべきだ。そうすれば、「死にそうだけど生きてます」というタイトルが意味するものがきっと分かり、「死にそうだけど、生きていこう」と思えるはずだから。
冒頭で触れた「お料理の高校生」にも、ぜひ読んでもらいたいと強く感じる。
『死にそうだけど生きてます』
ヒオカ 著
CCCメディアハウス
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。