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国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?

ISRAEL'S CHOICE WEAPON

2022年7月8日(金)15時03分
ダニエル・プレトカ(アメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェロー)

それでイランの核開発を止めることはできなくても、遅らせることはできる。イランのミサイル開発を止めることはできなくても、それに関わる人たちに二の足を踏ませることはできる。テロを終わらせることはできなくても、特定のテロ攻撃を防ぐことはできる。実際、そうした効果は実証されている。

では、こうした標的殺害で外交上の難問を解決できるだろうか。残念ながら、まずあり得ない。しかし、少なくともイスラエル側から見れば、厄介な問題を外交で解決できたためしはない。

国境を接するエジプトやヨルダン、そして一部の湾岸諸国がイスラエルとの和解に動いたのは外交の成果ではない。イスラエルの軍事力と、卓越した暗殺力を肌で感じているからだ。

しかし、それは道徳的に許されることだろうか。これまたイスラエル側に言わせれば、標的殺害は報復ではなく、さらなる殺人を防ぐための殺人だ。

それに、イランと同じく「イスラエルを世界の政治地図から消し去る」目的を持って攻撃を仕掛けるテロリストは、たいていの場合、中東のどこかの国に守られている。だから通常のやり方では彼らを罰することができない。ヒズボラやハマスの指導者の身柄を外交ルートで確保するのは不可能だろう。

そしてイスラエル(やアメリカ)は、自分たちの標的殺害は安全保障上の脅威を減らすためだと主張する。政権にとって不都合な人物を排除したり、外国の不愉快な政策を改めさせる目的で暗殺を用いるイランやロシアとは違う、ということだ。

しかし、政治の道具として暗殺を実行する「善人」と、別な理由で同じように人殺しを繰り返す「悪人」を区別できるものだろうか。たぶん、できない。それでも人殺しに伴う罪悪感よりも政治的な利益のほうが大きければ、今後も標的殺害は間違いなく続く。その件数も、手を出す国も増えるに違いない。

From Foreign Policy Magazine

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