最新記事

中国

お手本は毛沢東──「ゼロコロナ批判」で、ますます意固地になる習近平

All Is Not Well for Xi

2022年6月13日(月)15時57分
アイク・フライマン(グリーンマントル社インド太平洋担当)、ホアン・イエンチョン(米外交問題評議会研究員)

毛沢東の手法を教訓に

中国政治の歴史を振り返れば次の展開、とりわけこの夏の北戴河会議で起きそうな事態の筋が読める。

1959年7月のこと。毛沢東は工業化と農業の集団化を掲げて「大躍進」政策を進めていたが、その結果は悲惨だった。それで当時の国防部長・彭徳懐は毛に私信を送り、政策の再考を促した。彭は「大躍進」を毛の「偉大な業績」と評して敬意を示しつつも、地方官僚が無能なので経済的に「かなり大きな損失」が生じていると進言した。

しかし毛は、この手紙を建設的な批判ではなく、自分への挑戦と見なした。だから党指導部が集まった直後の廬山会議で、毛は彭の手紙を参加者に見せ、賛否を問うた。そして彭を「右派」と糾弾し、その支持者たちを逮捕した。

当時の毛沢東と同様、今の習近平も軍と治安当局を掌握している。だからライバルに対して圧倒的に有利だ。党大会の前に習の続投を阻むシナリオを描きたければ、夏の北戴河会議が最後のチャンスとなる。だが毛の教訓に学んだ習は間違いなく強力に反撃し、早いうちに異論反論の芽を摘むはずだ。

あるいは、経済情勢が安定するまで、何カ月か待つという手もあり得る。この点でも「大躍進」政策の事例が有益な参考になる。

異論を封じた後も、毛は「大躍進」を続けた。経済は一段と混乱し、餓死する人も多かった。結果、劉少奇や鄧小平など、大躍進政策の行きすぎに反対する現実的な指導者たちの影響力が増し、毛の権力基盤は再び危機にさらされることになった。

このとき毛は、自分の招いた経済危機が通りすぎるのをひたすら待ち、その後に反撃に出た。そして劉少奇が「独立王国」を築こうとしていると糾弾し、鄧小平が自分抜きで会議を開いていると非難して排除した。言うまでもないが、こうした権力争いが後の文化大革命につながったのだ。

今回も同じパターンが繰り返されるとすれば、習は経済が回復するまで李らの改革派に経済運営を任せ、回復の兆しが見えた段階で彼らを切るかもしれない。

ゼロコロナ政策に異議を唱える中国政府の関係者や医療専門家は、世論の圧力と経済の現実によって最高指導者の習が考え方を変えてくれる可能性に懸けている。国外の投資家や企業も、そうなってほしいと願っている。

だが中国政治の歴史は、彼らの期待が裏切られる可能性が高いことを示している。
かつて、習は言ったものだ。「自分への圧力が強ければ強いほど、私の決意は固くなるのだ」と。

From Foreign Policy Magazine

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中