インドに移住したJKが軽妙に綴る「カースト」と「肌」の重い現実
少し長くなってしまったが、この、友だちの肌の暗さと"日焼け止めを全身に塗りたくってきた"自分とを対比する視線にこそ著者らしさが表れている。そして同じことは、他のページからも感じられる。JKになる予定だった女の子は、インドで多くの貴重な体験をすることになったのだ。
しかも文章がうまいので、読んでいるだけでそこにいる人たちの表情や仕草が頭に浮かんでくる。例えば、とても映像的だなと感じたのは、地元の子どもたちと交流しながら子どもの権利を訴える「Rights for Children(子どものための権利)」というサービスクラブ(ボランティア系クラブ)の活動の一環でスラムに足を運んだ場面だ。
わたしたちが近づくと、子どもたちはこちらにぱっと顔を向け、目をきらきらさせながら「Hello!!」と声を上げた。名前負けしているわたしたち七人も、笑顔で迎え入れられたのだ。
みんな、明るい......! 勝手に想像していた「スラム」の印象とは真逆だった。(中略)女の子たちも緊張しているのか、ちょっぴりもじもじしながらみんなでくっついている。(177ページより)
この部分からは、人種も肌の色も違う高校生と子どもたちが、少しずつ距離を狭めていこうとしている光景が見てとれる。そして結果的に、ここでの活動から著者は得難いものを身につけることになる。
そんなインド生活が終わった理由は意外でもあり、「まあ、それは受け入れるしかないよな」と感じさせるものでもあったが、それは著者が本書を書こうと決意したきっかけにもなったようだ。
軽妙でセンスがあり、しかも気負いが感じられないからこそ、笑わされたり、ときに考えさせられたりしながらあっという間に読み終えることができる良書である。
『JK、インドで常識ぶっ壊される』
熊谷はるか 著
河出書房新社
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。