最新記事

生命

まだ生きている? オーストラリアの岩塩の中から8億3000万年前の微生物が見つかる

2022年5月27日(金)17時10分
松岡由希子

オーストラリアのブラウン層で見つかった岩塩中の液体の微生物は生きている可能性が......Schreder-Gomes Geology, 2022

<オーストラリアで、8億3000万年前の地層の岩塩の中の液体に、原核生物や真核生物の細胞と大きさ、形状、蛍光反応が一致する有機物を発見された......>

原核生物や真核生物の細胞と大きさ、形状、蛍光反応が一致する有機物が約8億3000万年前の層状岩塩の流体含有物から見つかった。

米ウェストバージニア大学の研究チームは、豪州中部の8億3000万年前の「ブラウン層」の深さ1247.1~1531.8メートル地点から西オーストラリア州地質調査所(GSWA)が1997年に採掘したコアサンプルを調べ、その研究成果を2022年5月6日に学術雑誌「ジオロジー」で発表した。

微生物が数億年もの間、岩塩の中で良好に保存された

砂漠が広がる豪州中部はかつて塩分濃度の高い海であったとされる。「ブラウン層」は、当時の海洋環境を示す岩塩が含まれる新原生代(約10億~5億4200万年前)の層序単元(共通の特徴を持つ地層のまとまり)だ。

研究チームは、透過光と紫外可視分光法(UV-vis)を用いた非侵襲的観察により、コアサンプルの岩塩の一次流体含有物にある有機物を分析した。まず、透過型顕微鏡を用いて最大2000倍で岩塩結晶の表面下を観察し、有機物とみられる物質の大きさや形状、色を分析。さらに紫外可視分光法により、この物質の蛍光反応を検証した。岩塩の保存状態は良好で、深さ1480.7メートルから1520.1メートルにわたる10の岩塩層を観察できた。

その結果、大きさや形状、紫外可視光への蛍光反応から、流体含有物に捕捉された固体は原核生物と真核生物の細胞と一致した。

地球外の化学的堆積岩での生命探査にも示唆を与えている

岩塩結晶が塩分のある表層水で成長すると、一次流体含有物に親水をとらえ、その際に結晶面やその近くにある蒸発岩鉱物や有機物などの固体も捕捉することがある。この研究結果は、捕捉された微生物が数億年もの間、岩塩の中で良好に保存され、そのままの状態を光学的観察のみで検出できることを示すものだ。

これは地球上および地球外の化学的堆積岩での生命探査にも示唆を与えている。火星にはブラウン層と同様の組成を持つ堆積物が見つかっており、サンプルを破壊したりせずに生物を特定できる可能性を示唆している。

研究チームは、研究論文で「古代の化学的堆積岩は古代の微生物や有機化合物の宿主となる可能性があると考えるべき」とし、「光学的観察は古代岩石の生物存在指標を調べる基礎的なステップと位置づけるべきだ」と述べている。

微生物はまだ生きている可能性も否定できない

地質時代にわたる微生物の生存可能性については完全に解明されておらず、「ブラウン層」の岩塩に存在する微生物はまだ生きている可能性も否定できない。

放射線は長い年月をかけて有機物を破壊すると考えられているが、2002年に発表された研究論文では、2億5000万年前の岩塩がごく微量の放射線にしか被ばくしていないことが示された。また、これまでの複数の研究結果では、代謝性変化や栄養源となりうる有機化合物や死細胞との共存により、微生物が流体含有物の中で生存しうることも示されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中