ロシアに翻弄される漁業の町、根室に再び試練 サケ・マス交渉、さらにサンマ漁にも暗雲が
市内で鮮魚店を経営する日沼茂人さん(71)はかつてカニを捕っていたが、旧ソ連が1976年に200カイリ漁業専管水域を設定して漁ができなくなり、漁師をやめた。2015年にロシア200カイリ内でサケ・マス流し網漁が禁止されると、特に紅サケを売ることができなくなり店の売り上げに影響が出た。
サンマ漁にも暗雲が
「一番懸念するのは4つの交渉すべてがだめになること」と話す日沼さんは、「新型コロナ(ウイルスの流行)が2年続き、第7波が来るか来ないかというときにウクライナの問題が発生した。毎日テレビでニュースを見ているが、どうなるのだろうと思っている」と語る。
サケ・マス漁のシーズンは6月まで。日沼さんによると、交渉が妥結しないと漁師は1隻6000万─7000万円の収入を失う。日沼さんの店で扱うサケは1本およそ9000円で、1日50本売れるとしたらその売り上げがすべてなくなる。
1970年に4万5000人いた市の人口は、2万4000人まで減少した。ロシア側の漁業政策が変わるなどして漁獲量が減り、廃業する漁業関係者が増えて若者の働き口が減ったことが大きい。「漁業ができないと、ここに住むことができない、廃業になる。まもなく(人口は)2万人になる」と、旧ソ連に拿捕されたことがある飯作さんは言う。
飯作さんは日本に戻ってから漁を続け、漁業関係者の代表者としてモスクワの交渉の場に何度も出向いたが、ロシア海域で流し網漁が禁止されるとサケ・マスは採算が合わなくなった。2016年以降はサンマ漁に船を出している。
8月から始まる今年のサンマ漁のための交渉はウクライナ侵攻前にすでに妥結しているが、ロシア海域に入るための許可証がまだ発行されていないという。来シーズンの交渉も不透明だ。
「根室は漁業、水産が基幹産業なので、これがなかったら根室にいる価値がなくなる」と、飯作さんは言う。「文化もなくなる。栄えないところに文化はない」
(Daniel Leussink 取材協力:竹本能文、久保信博 編集:橋本浩、金昌蘭)
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