最新記事

日ロ関係

ロシアに翻弄される漁業の町、根室に再び試練 サケ・マス交渉、さらにサンマ漁にも暗雲が

2022年4月18日(月)09時31分
根室港に戻ってきた漁船と水揚げされたホタテ

根室港に戻ってきた漁船と水揚げされたホタテ REUTERS/Daniel Leussink

飯作鶴幸さん(79)は高校を卒業して間もないころ、旧ソ連の収容所に1年近く抑留された。旧ソ連が実効支配し、日本も領有権を主張する北方領土(ロシア名:クリル諸島)周辺でタラ漁をしていて拿捕された。

生まれ故郷の色丹島に連行された飯作さんは、サハリンの収容所へ送られ、石灰石を採掘する労働をしながら成人を迎えた。1963年9月、北海道根室市へ戻った。

それから約60年、ソ連が崩壊してロシアとなった今も、漁業を営む飯作さんはモスクワの動きに気をもんでいる。ウクライナ情勢を巡って日本とロシアの関係が冷え込み、毎年この時期に開かれる漁業交渉の行方が定まらないためだ。

霧の立ち込める4月12日の寒い朝、根室の歯舞港には数隻の漁船が陸揚げされたまま留め置かれていた。例年なら家族に見送られ、サケ・マスの流し網漁へ出ているころだが、漁獲量など操業条件を巡る交渉がロシアとの間で妥結しておらず、出漁できずにいる。

「戦後、ロシアと色々な問題があっても漁業関係だけはずっと続いてきた。こんなことは今までない」と、飯作さんは言う。

日本とロシアが毎年行う漁業交渉は4つあり、アムール川へ戻るサケ・マスを日本の200カイリ水域で捕るための協議がトップバッターだ。歯舞群島にある貝殻島のコンブ漁、ロシア水域で操業するサンマ漁など、残る交渉に影響を及ぼす可能性があり、水産業関係者は行方を注目している。

日ロ両政府は例年の漁解禁日から1日経った4月11日にようやく協議を始めたが、15日時点で合意に至っていない。金子原二郎農相はこの日の参院本会議で、「日本の漁業関係者が受け入れ可能な操業条件が確保されるようにしっかり交渉したい」と述べた。

あちこちにロシア語の看板

第2次世界大戦終結前の根室は北方4島と一体で、戦後にロシアが実効支配するようになってからもこの海域を通じて生計を立てている人が多い。海産物の加工業なども合わせると、就労者の約4割が水産業に従事している。

ロシアはあらゆる面で身近な存在で、いたるところにロシア語の看板が立っている。ロシアが先日国後島で軍事演習を行った際は市内から火花が見え、揺れを感じたという。漁港には今もロシアの漁船がウニを運んでくる。ロシアの動向は街の経済と市民の生活を直撃する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米がベネズエラ攻撃、マドゥロ大統領拘束 未明に首都

ワールド

米がベネズエラ攻撃、マドゥロ大統領拘束 未明に首都

ワールド

ベネズエラ石油施設に被害なし、米の攻撃後も通常稼働

ワールド

ロシア、米のベネズエラ攻撃は「侵略行為」 各国も懸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている言葉とは?
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 6
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 7
    松本清張はなぜ「昭和の国民作家」に上り詰めたのか…
  • 8
    トランプの圧力、ロシアの侵攻...それでも揺るがぬウ…
  • 9
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 10
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中