ロシア元国営通信ジャーナリストが語る、驚愕のメディア内部事情
REPORTING FROM EXILE
心ある人のささやかな抵抗
ウクライナ戦争の第1段階が始まっていた2015年、私は産業的に作られたフェイクニュースがとても多いことに気付いた。そして、ロシアのメディアにファクトチェックの機能が一切ないことも理解した。
私が働いていたRIAノーボスチの後身も含めて、全てのメディアが、おぞましいプロパガンダとフェイクニュースを盛り上げているだけだった。
そこで、私は「ヌードル・リムーバー」というサイトを立ち上げ、地道にファクトチェックを始めた。ロシア語で「誰かの耳にヌードル(麺)を入れる」とは、「たわ言を吹き込む」という意味だ。
だから私は人々の耳からヌードルを取り除いてきた。今は本業に時間を取られ、サイトは2019年以降ほぼ休眠状態だが、いずれ復活させたいと思っている。
ファクトチェックには実際の調査が必要だから、私が調査報道に進んだのは自然の流れだった。クラウドソーシングやクラウドファンディングを利用して、かなり複雑な調査を始めた。
唯一の独立系英字新聞であるモスクワ・タイムズとも仕事をするようになった。彼らはとても精力的だ。
忘れてはいけない。最も重要な報道は、国営メディアのジャーナリストによるものではないのだ。
ロシアでは全メディアの90%を政府が所有している。主要な国営テレビ局のトップが全員集められ(独立系のテレビ局はもはや残っていない)、大統領府の担当者から直接、報道する話題を与えられる。
つまり、政府に命じられた話題だ。議論の余地もない。
政府系メディアしか見ない人は、おそらくロシア人の70%がそうだが、戦争が起きていることさえ知らないだろう。
国営メディアには、今も私の元同僚や友人がいる。何人かは政府の行動に強く反発して、自分にできることをしてプロパガンダを妨害しようとしている。自分がこの仕事をしなければ、ほかの誰かがやるだけだ。だから自分はとどまって、できる限りの方法で妨害しよう、と。
彼らは写真やキャプションの選び方など、ささやかな抵抗をしている。
私たちの内輪のジョークに、「悪ければ悪いほどいい」というものがある。当局に許された話題を提供していれば、報道のクオリティーなど誰も気にしないのだから、明らかにひどいものを作っても関係ない。
もっとも、私の元同僚の90%は、医療保険や年金など多くの特典がある楽な仕事だという理由で、言われるとおりにしてきた。
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