最新記事

ロシア

ロシア元国営通信ジャーナリストが語る、驚愕のメディア内部事情

REPORTING FROM EXILE

2022年3月31日(木)16時10分
アイマン・イスマイル(スレート誌記者)
サンクトペテルブルク、反戦デモ

ロシア内外で反戦ムードが広がっている。サンクトペテルブルク(写真)では3月に入って反戦集会やデモが相次いでいる MARTON MONUーREUTERS

<フェイクニュースを垂れ流し、「ボス」はプーチン。政府に反発してプロパガンダを妨害しようとする者もいれば、言われたとおりに仕事をしている者もいる。私は2015年にファクトチェックのサイトを作り、今年3月3日、国を出た――>

ロシア人の調査報道ジャーナリスト、アレクセイ・コバリョフは3月初めにモスクワを離れ、ロシア国外から戦争の取材を続けている。彼の話を基にスレート誌のアイマン・イスマイルが構成した。

◇ ◇ ◇

正直なところ、私がジャーナリズムの世界に入ったのは、ライブのチケットなどタダで手に入るものが目当てだった。

「声なき者に声を与える」など、高尚なことを言うつもりはない。この職業の真の理想と向き合うようになったのは、かなり後のことだ。しばらくは、ただ楽しんでいた。

今から20年ほど前、私はモスクワの地方紙で新米の記者としてスタートした。市政や文化欄のデスクなどを担当しながら少しずつ階段を上っていったが、ジャーナリズムを学問として学んだことがなかったため、キャリアの壁に突き当たった。

そこで2009年からロンドンに渡り、国際ジャーナリズムの修士課程で学んだ。修士号取得後もさらにロンドンに滞在して、ロシアのさまざまな雑誌の仕事をした。

そして2012年に、当時モスクワで最大の国営通信社だったRIAノーボスチに誘われた。

数年ぶりに帰ったモスクワは、とても刺激的な時代を迎えていた。私が働いていたのは事実上、国の宣伝機関だったが、多くの点で驚くほどリベラルだった。かなり際どい内容も掲載したが、検閲されることはなかった。

しかし、2013年12月、全てが崩れ去った。

2014年以前のRIAノーボスチは、とてもリベラルで心の広い編集者のチームに率いられていた。彼らは基本的に国家公務員だったが、ジャーナリズムの倫理に対して真摯だった。あからさまなプロパガンダや「フェイクニュース」はなかった。

2013年12月のある朝、ウラジーミル・プーチンの大統領令が発表された。RIAノーボスチを含む国営メディアを再編して、政府所有の巨大なメディア・コングロマリットを新たに設立するというのだ。

私たちは通勤途中にその知らせを聞いた。

私をRIAノーボスチに誘ってくれたリベラルなスベトラーナ・ミロニュク編集長に代わって、彼女の長年のライバルで国営テレビ局RTの編集長マルガリータ・シモニャンが、新しい国営通信社として改名した「ロシアの今日」の編集長にも就くことになった。

シモニャンはうんざりするほどプーチン信奉者で、彼をボスと呼ぶ。ジャーナリストは大統領を自分のボスとは呼ばない。

新しい国営通信社の親クレムリンの経営幹部は、ニュースの在り方について、従来とは全く異なる見解を持っていた。それ以降、物事はまるで変わってしまった。とことん不条理だった。

【関連記事】プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中