最新記事

火山

観測史上最大......トンガの噴煙、成層圏を超えていた

2022年2月24日(木)18時50分
青葉やまと

噴煙の高さは58キロに達していた...... GOES-WEST SATELLITE/NOAA/RAMMB/CIRA

<噴火から30分で成層圏を抜け、中間圏に到達。2基の衛星の画像差をNASAが解析した>

甚大な被害をトンガにもたらした今年1月の噴火で、噴煙が高さ58キロに達していたことがわかった。高度50キロまで広がる成層圏を突破し、流星が燃焼されるとされる中間圏に達する高さだ。

噴煙の高さとしては、衛星による観測史上最大となる。これまでの記録は、1991年のフィリピン・ルソン島で起きたピナトゥボ火山での噴煙の35キロであった。今回はその1.6倍に相当する。

解析に当たったのは、NASAラングレー研究所の研究者たちだ。同研究所によると、1回目の爆発からわずか30分ほどで、海面から押し上げられた火山灰や水蒸気、ガスなどが急速に上昇。58キロの中間圏まで押し上げられた。

2回目の爆発でも高度50キロ付近にまで噴煙が到達しており、成層圏と中間圏の境界まで届いていたことになる。

Tonga Volcano Plume Reached the Mesosphere


高すぎて既存モデルを適用できず 2衛星の視差を利用

今回の測定にあたっては、2つの衛星画像の角度差を読み解く特殊な手法が用いられた。NASAの衛星情報サイト『NASA・アース・オブザーバトリー』が詳しく説明している。

それによると、噴煙を観測する際には通常、衛星の赤外線観測装置から得られた温度データが用いられる。噴煙は上昇に伴って熱を失うため、煙の温度情報からおおよその高さを推論することが可能だ。

ただしこの技法には限界があり、最大でも高さ16キロほどまでの噴煙にしか適用することができない。上昇に伴い上空の冷えた大気にさらされ、一定の割合で熱が失われると前提に立った推定法だからだ。

噴煙が高さ16キロまでの対流圏を抜けて成層圏下部に入ると、周囲の大気の温度はほぼ一定となる。また、オゾン濃度の高い成層圏上部に達すると、太陽熱の影響で逆に気温が上昇してゆく。したがって今回の場合、この推論モデルでは正確な高さを算出することができない。

そこでラングレー研究所は、幾何学的アプローチを採用することにした。2基の人工衛星がほぼ同時刻に捉えた画像同士を比較し、その角度差(視差)から噴煙の高度を算出する方法だ。この手法は本来、対流圏を超えて発達するような巨大な雷雲を観測するために開発された。

米環境衛星と「ひまわり」 偶然にも好位置に構えていた

視差によるアプローチを例えるならば、人間が2つの目を使い、角度の差から奥行きを把握するようなイメージだ。衛星写真を使ってこの状況を再現するには、互いに同じ撮影装置を搭載し、なおかつ適度に離れた場所にある、2基の静止衛星が必要となる。

そこで白羽の矢が立ったのが、米海洋大気庁(NOAA)が運用する静止軌道環境衛星17号(GOES-17)、および日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)のひまわり8号だ。どちらもトンガ上空を観測範囲のなかにカバーしており、かつ非常に似通った赤外線観測装置を搭載している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感3月は92.9に低下、期待指数は

ワールド

米、ロ・ウクライナと合意 黒海での航行安全確保巡り

ワールド

中国、軍事・サイバー上の最大の脅威=米情報機関

ワールド

韓国南東部で山火事拡大、世界遺産の安東河回村にも避
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中