観測史上最大......トンガの噴煙、成層圏を超えていた
噴煙の高さは58キロに達していた...... GOES-WEST SATELLITE/NOAA/RAMMB/CIRA
<噴火から30分で成層圏を抜け、中間圏に到達。2基の衛星の画像差をNASAが解析した>
甚大な被害をトンガにもたらした今年1月の噴火で、噴煙が高さ58キロに達していたことがわかった。高度50キロまで広がる成層圏を突破し、流星が燃焼されるとされる中間圏に達する高さだ。
噴煙の高さとしては、衛星による観測史上最大となる。これまでの記録は、1991年のフィリピン・ルソン島で起きたピナトゥボ火山での噴煙の35キロであった。今回はその1.6倍に相当する。
解析に当たったのは、NASAラングレー研究所の研究者たちだ。同研究所によると、1回目の爆発からわずか30分ほどで、海面から押し上げられた火山灰や水蒸気、ガスなどが急速に上昇。58キロの中間圏まで押し上げられた。
2回目の爆発でも高度50キロ付近にまで噴煙が到達しており、成層圏と中間圏の境界まで届いていたことになる。
Tonga Volcano Plume Reached the Mesosphere
高すぎて既存モデルを適用できず 2衛星の視差を利用
今回の測定にあたっては、2つの衛星画像の角度差を読み解く特殊な手法が用いられた。NASAの衛星情報サイト『NASA・アース・オブザーバトリー』が詳しく説明している。
それによると、噴煙を観測する際には通常、衛星の赤外線観測装置から得られた温度データが用いられる。噴煙は上昇に伴って熱を失うため、煙の温度情報からおおよその高さを推論することが可能だ。
ただしこの技法には限界があり、最大でも高さ16キロほどまでの噴煙にしか適用することができない。上昇に伴い上空の冷えた大気にさらされ、一定の割合で熱が失われると前提に立った推定法だからだ。
噴煙が高さ16キロまでの対流圏を抜けて成層圏下部に入ると、周囲の大気の温度はほぼ一定となる。また、オゾン濃度の高い成層圏上部に達すると、太陽熱の影響で逆に気温が上昇してゆく。したがって今回の場合、この推論モデルでは正確な高さを算出することができない。
そこでラングレー研究所は、幾何学的アプローチを採用することにした。2基の人工衛星がほぼ同時刻に捉えた画像同士を比較し、その角度差(視差)から噴煙の高度を算出する方法だ。この手法は本来、対流圏を超えて発達するような巨大な雷雲を観測するために開発された。
米環境衛星と「ひまわり」 偶然にも好位置に構えていた
視差によるアプローチを例えるならば、人間が2つの目を使い、角度の差から奥行きを把握するようなイメージだ。衛星写真を使ってこの状況を再現するには、互いに同じ撮影装置を搭載し、なおかつ適度に離れた場所にある、2基の静止衛星が必要となる。
そこで白羽の矢が立ったのが、米海洋大気庁(NOAA)が運用する静止軌道環境衛星17号(GOES-17)、および日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)のひまわり8号だ。どちらもトンガ上空を観測範囲のなかにカバーしており、かつ非常に似通った赤外線観測装置を搭載している。