フィリピン軍、反政府組織NPA司令官を殺害 報復攻撃に警戒、治安当局が呼び掛け
また今回の作戦に携わった陸軍第4歩兵大隊のロメオ・ブラウナー司令官も声明の中で「マドロス司令官のテロの生涯は悲劇的に終わった。数十年に渡って地域と住民に与えたテロの恐怖は正義によって終止符を打たれたのだ。彼の死は共産主義組織にとっては大きなダメージとなることだろう」と作戦の成果とマドロス司令官の死の意義を改めて強調した。
全国でNPAの報復作戦を警戒
1969年3月にルソン島の農村で創設されたNPAは南部ミンダナオ島や北部ルソン島の北部山岳地帯などを主な活動拠点とし、これまでに外国人誘拐や治安部隊への攻撃、テロ事件などを起こしているがその活動は全国に及んでいる。その現在の兵力は全国で約3000人とみられている。
ドゥテルテ大統領は2016年の大統領就任後、比共産党と新人民軍の双方と和平交渉に乗り出し一時停戦で合意したものの、各地で軍や警察との戦闘が絶えず、結局2017年に交渉は打ち切られ、各地で衝突や戦闘が続く状態が今日まで続いている。
マドロス司令官が殺害された同じ10月30日には北部ルソン島のコルディリエラ行政区マウンテン州でNPAと軍による交戦が約10分間にわたって発生、NPAメンバー2人が殺害される事件も起きている。
こうした事態にフィリピン軍は全土に対して「NPAによるマドロス司令官殺害の報復攻撃が行われる可能性があり、厳重な警戒態勢をとる必要がある」と治安当局とともに一般国民に対してもテロへの警戒を呼びかけている。
フィリピンは2022年5月に行われる大統領選に向けて主な立候補者の顔ぶれが出そろい2022年2月8日からの本格的な選挙運動開始を前にすでに候補者間や支持者間の中傷非難合戦や有権者の買収疑惑などで熱気が高まっている。
それに加えて未だに終息しないコロナ禍の感染防止対策の徹底とそれへの反発、抵抗も根強く国内情勢は不安定化している。
そうした状況の中でNPAに加えて南部を主な拠点とするイスラム教系テロ組織「アブサヤフ」などによるテロへの警戒も求められるなどフィリピン全体がザワザワとした落ち着かない雰囲気に包まれている。そんな時期に今回の大物NPA司令官の殺害事件が起きただけに国民の不安は高まっている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など