最新記事

ネット動画,

動画サイトの視聴で広がる集団疾患、世界の若年層で報告相次ぐ

2021年9月9日(木)18時45分
青葉やまと

ある動画を視聴した若者たちのあいだで、意思に反して突発的に顔を歪めたり汚言を吐いたりする症状が急増した Михаил Руденкo-iStock

<ネット上の動画を再生した一部の若者たちが、昨年から身体の不規則な動きや意図しない奇声などに悩まされるようになった>

一部の動画を視聴した若者たちのあいだで、意思に反して突発的に顔を歪めたり汚言を吐いたりするなどの行動が見られるようになっている。昨年ごろから症例が急増し、世界各国で症例の報告が相次ぐ。トゥレット症と呼ばれる既存の症状によく似ているが、伝播のパターンと発現のメカニズムが異なることから、一部研究者たちは新たな症状だと位置付けている。

一例としてイギリスでは、ある日から14歳少女の身体が散発的に、意思とは関係なく動くようになった。英医学誌の『BMJ』に掲載された論文によると、少女は急に首を突き出したり、雄叫びをあげたりする挙動を示しているという。こうした突発的な動作ないし発声自体は「チック」と呼ばれる既知の症状だが、その症例数は昨年からイギリスで急増している。論文は「チックの爆発的増大」だと述べ、警鐘を鳴らす。

海を越えたニュージーランドでも発生している。現地ニュースメディアのスタッフ誌は、昨年7月に突然チックを発症した16歳少女のケースを報じている。少女は初日に頭部のけいれんを感じながら目覚め、翌日になると汚い言葉を叫び散らすようになったという。少女は周囲の理解を得られず、失礼な言動をする若者だとの思い違いに心を痛めている。ニュージーランドでは昨年以降、こうした患者の数が例年の倍以上の水準にまで増加している。

カナダでも問題視されつつある。WIRED誌イギリス版は、カナダ・アルバータ州の精神科クリニックにおいて、今年5月までの1年間に通常の1.5倍のペースでチックの受診が増加していると伝えている。突然手を叩いたり脈絡なく「ノックノック」などと口走ったりする子供が増え、症例数は昨年のクリスマスシーズンまでに「天文学的な規模」になったという。

動画経由で世界に拡散か

国境を超えて増加しているこれらの症例について、徐々に原因が解明されるようになってきた。症状を媒介していると疑われるのが、SNSや動画サイトなどに見られる特定の種類の動画だ。症例に詳しいドイツ・ハノーファー医大の医師ら研究チームが本件の分析を行い、オックスフォード大学出版局が刊行する学術誌『ブレイン』に結果が掲載されている。

論文によるとハノーファー医大では昨年ごろから、症状を示す若者が病院部門に押し寄せるようになっていたという。医師たちは当初大いに困惑したが、患者たちの多くが特定のYouTubeチャンネルを視聴していることを割り出した。

当該のチャンネルはドイツの人気YouTuberであるジャン・ツィンマーマン氏が運営しているもので、ドイツで第2位の人気を誇る一大チャンネルだ。登録者数222万人を誇り、総再生回数は3億回を上回る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

グーグルの「アメリカ湾」表記変更は間違い、メキシコ

ワールド

ハマスが人質解放、イスラエル人3人とタイ人5人 引

ワールド

パナマ大統領、運河巡る議論の可能性否定 米国務長官

ワールド

仏極右ルペン氏、トランプ米大統領の強制送還巡る強硬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
  • 4
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 5
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 6
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 9
    世界一豊かなはずなのに国民は絶望だらけ、コンゴ民…
  • 10
    トランプ支持者の「優しさ」に触れて...ワシントンで…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 8
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 9
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中