AUKUSを批判する中国もフランスも間違っている──エバンズ豪元外相
The Real Risks of the Deal
原子炉の燃料交換の際に放射性物質が拡散するリスクは想定できるが、オーストラリアのスコット・モリソン首相は「次世代型原子力潜水艦は、稼働寿命終了まで燃料交換が不要な原子炉を用いる」と明言している。実際、高濃縮ウランを燃料とする船舶用原子炉は30年間、燃料を交換せずに稼働が可能だ。
安全性について言えば、「チェルノブイリ」呼ばわりはばかげている。過去半世紀の間、アメリカ製原子炉は数百隻の船舶で使われてきたが、事故は一度も起きていない。海軍原子炉は民生用のものよりずっと小さく、港に停泊中は通常、停止される。放射性物質の潜在的な拡散量は、最悪の場合でも典型的な商業用原子炉の1%未満だ。
AUKUSには広く「政治的リスク」と呼ばれる問題も必然的に付きまとう。フランスとの対立の副産物、オーストラリアの大幅な能力向上が地域に与える影響、アメリカとの新たな関係によって独立性が損なわれるのではないかという重大な疑問、対中関係の大幅な悪化を招くだけではないか、という懸念などだ。
先に約束を破ったのはフランスだ
オーストラリアが仏政府系造船会社と、通常動力型の次期潜水艦12隻の建造・購入契約を結んだのは5年前。だが、進行状況はかなり前から問題含みだった。当初、500億豪ドル(約4兆円)だったコストは900億豪ドルに激増。納期は守られず、国内雇用創出という期待も空振りに終わったが、フランス側に悪びれる様子はなかった。
当然ながら、AUKUS創設は中国の台頭と新たな戦略的積極姿勢に対する反応だと、大方の見方は一致している。
だが原子力潜水艦の技術供与をはじめとするAUKUSの防衛プログラムは、ある国の敵意への対抗措置ではなく、地域内各地で起き得る将来的脅威へのオーストラリアの反応能力を強化するものとして捉えられ、受け入れられるべきだ。これは同盟間協力の新たな「層」への追加であり、大変動ではない。
言うまでもなく、中国はAUKUSの創設発表に否定的な反応を見せた。現在、豪中関係は問題だらけ(原因はさまざまだが、その一部はオーストラリアにある)で、短期的にはAUKUSが関係改善の助けにならないのは確かだ。
とはいえ、米豪の安全保障関係を不動のものと位置付ける中国にとって、今回の発表は大きな驚きではないだろう。自らの国益にかなうなら、鉄鉱石輸入などの形でオーストラリアと取引することもいとわないはずだ。