最新記事

AUKUS

AUKUSを批判する中国もフランスも間違っている──エバンズ豪元外相

The Real Risks of the Deal

2021年9月30日(木)08時33分
ギャレス・エバンズ(オーストラリア元外相)

原子炉の燃料交換の際に放射性物質が拡散するリスクは想定できるが、オーストラリアのスコット・モリソン首相は「次世代型原子力潜水艦は、稼働寿命終了まで燃料交換が不要な原子炉を用いる」と明言している。実際、高濃縮ウランを燃料とする船舶用原子炉は30年間、燃料を交換せずに稼働が可能だ。

安全性について言えば、「チェルノブイリ」呼ばわりはばかげている。過去半世紀の間、アメリカ製原子炉は数百隻の船舶で使われてきたが、事故は一度も起きていない。海軍原子炉は民生用のものよりずっと小さく、港に停泊中は通常、停止される。放射性物質の潜在的な拡散量は、最悪の場合でも典型的な商業用原子炉の1%未満だ。

AUKUSには広く「政治的リスク」と呼ばれる問題も必然的に付きまとう。フランスとの対立の副産物、オーストラリアの大幅な能力向上が地域に与える影響、アメリカとの新たな関係によって独立性が損なわれるのではないかという重大な疑問、対中関係の大幅な悪化を招くだけではないか、という懸念などだ。

先に約束を破ったのはフランスだ

オーストラリアが仏政府系造船会社と、通常動力型の次期潜水艦12隻の建造・購入契約を結んだのは5年前。だが、進行状況はかなり前から問題含みだった。当初、500億豪ドル(約4兆円)だったコストは900億豪ドルに激増。納期は守られず、国内雇用創出という期待も空振りに終わったが、フランス側に悪びれる様子はなかった。

当然ながら、AUKUS創設は中国の台頭と新たな戦略的積極姿勢に対する反応だと、大方の見方は一致している。

だが原子力潜水艦の技術供与をはじめとするAUKUSの防衛プログラムは、ある国の敵意への対抗措置ではなく、地域内各地で起き得る将来的脅威へのオーストラリアの反応能力を強化するものとして捉えられ、受け入れられるべきだ。これは同盟間協力の新たな「層」への追加であり、大変動ではない。

言うまでもなく、中国はAUKUSの創設発表に否定的な反応を見せた。現在、豪中関係は問題だらけ(原因はさまざまだが、その一部はオーストラリアにある)で、短期的にはAUKUSが関係改善の助けにならないのは確かだ。

とはいえ、米豪の安全保障関係を不動のものと位置付ける中国にとって、今回の発表は大きな驚きではないだろう。自らの国益にかなうなら、鉄鉱石輸入などの形でオーストラリアと取引することもいとわないはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米関税措置への対応、石破首相「省庁の枠越えオールジ

ワールド

米とは為替の過度な変動や無秩序な動きは経済に悪影響

ワールド

米、イラン産石油巡り新たな制裁 中国の貯蔵ターミナ

ワールド

欧州、ウクライナ安保部隊巡り国防相会合 詳細なお不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中