最新記事

成長環境

草原や川より、森林のそばに住む子どもの方が、認知力が発達することがわかった

2021年8月17日(火)18時50分
松丸さとみ

「自然」なら何でもいいわけではない!?...... stockstudioX-iStock

<英国で行われた調査で森林のそばに住む子どもの方が、草原や川のそばに住んでいる子どもと比べ、認知力が発達することがわかった>

3500人以上を対象にした大規模調査

森林のそばに住む子どもの方が、草原や川のそばに住んでいる子どもと比べ、認知力が発達し、メンタルヘルスや全体的な心身の健やかさが良い状態にあることが、英国で行われた調査で明らかになった。調査結果は、英国の科学誌ネイチャー・サステナビリティ(電子版)に掲載されている。

この類では最大級とみられる今回の調査を行ったのは、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)などの研究者ら。ロンドン全域にある31校に通う9~15歳の生徒3568人を対象に調べた。ICLによるとこの年齢は、思考や推論、さらには世の中を理解する能力の発達に重要な時期となる。

調査では、SCAMP(認知・青年期・携帯電話に関する研究)と呼ばれる、ICLが行う大規模コホート研究の2014~2018年のデータセットを分析した。SCAMPは、携帯電話などのテクノロジーの使用が、子どもの認知や行動の発達にどのような影響を及ぼすかを調べる目的で、ロンドンの中等学校(日本の中学・高校に相当)に通う生徒を3年間にわたり追跡調査している。

研究者らは、環境をグリーン(草原)、グリーン(森林)、ブルー(川、湖、海)の3つに分類。さらに、サテライト・データを使って、生徒たちの自宅と学校の周囲に広がる環境を調べた。そこから、生徒たちが日常的に、これらの環境にどれだけ触れているかを算出した。

生徒のメンタルヘルスと全体的な心身の健やかさについては、自己報告形式のアンケートを使用した。

生徒の年齢、民族、性別、両親の職業、通っている学校のタイプ(私立・公立)などの説明変数(因果関係の原因となる変数)を調整。その結果、日常的に森林に触れる頻度が高いグリーン(森林)の生徒の方が、そうでない生徒と比べ、認知力の発達を示すスコアが高かった。一方で、グリーン(森林)の生徒が2年後に情緒面や行動面で問題を起こすリスクは、16%低かった。

認知力の発達に関しては、グリーン(草原)に分類された地域の生徒もある程度高いスコアを獲得したが、ブルーに分類された地域の生徒たちにはこうした傾向は見られなかった。

都市計画の際に考慮すべき

今回の調査の共同上席著者であるICLのミレーレ・トレダノ教授は、自然環境のメンタルヘルスへの影響力の大きさは、家族歴(親族や家族の既往歴)や親の年齢と同程度であり、さらには周囲の都市化の度合いよりも大きいことが、過去の研究でも示されてきたと指摘。自然環境がなぜここまで人間のメンタルヘルスに重要であるかを解明していくことが、非常に重要だと述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中