最新記事

現代史

前世代の先輩たちがいつの間にか姿を消していった──氷河期世代と世代論

2021年7月1日(木)17時20分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン94より転載

「崖」を目の前にして

21世紀初頭の20年は、「団塊の世代」やさらにその上の世代が、時に「老人支配」「老害」といった非難を受けながらも、分厚く社会の中枢に居続けた。その陰で、私のような1973年生まれを人口のピークとする「団塊ジュニア」の世代は、「若手」という扱いを受け続けてきた。

「団塊ジュニア」は、物心ついてからの大半の時間を「失われた30年」の中で過ごし、膨れ上がった同世代人口の中での熾烈な競争に晒されながら、バブル崩壊後の就職難により、就業と昇進の機会が限定された「氷河期世代」の「第一期生」でもある。

私自身、職業人生の大半は、「その場で一番若い人」として振る舞うことが期待される環境であり、30代後半から40代になってもなお「新進気鋭」と呼ばれることが通常であった。ところが近年になって、上の世代が否応のない生物学的制約から、次々に退出していくことで、団塊ジュニア世代が、突如として、社会の舵取りを担う指導層の役割を準備なく負わされようとしている。

数年前に、若い頃から注目されリーダーシップを取り、政治・行政的な要職も歴任された先生とふとしたことで茶飲み話をする機会に恵まれたのだが、その先生は私の顔を見るなり「池内君、気をつけなよ。何十年もずっと『若いね、若いね』と言われ続けていると、突然、上に誰もいなくなって、最年長になるんだ。気づくと崖があってね、先頭に立っているんだよ」と仰った。

私が「その場で一番若い人」の役割を長く務めて、ややくたびれつつある様子を、感じ取って、忠告をいただいたのだろう。

否応のない時間の流れによって突然に眼前に「崖」を見出すようになった後に、何をすればいいのか。私にとっては、中東という、日本にとって見慣れない世界をめぐって展開する国際政治の現在とその先を見通す「ヴィジョナリー」から、「中東をめぐって国際政治が回っていた過去の時代」を最初から見届けてきた「ヒストリアン」に転じるために、細々と準備をしているところである。

これは、私が今現在抱えている個人的な「問題」に過ぎないのだが、そこに多少の世代的な背景や使命も認められるのではないかと思う。


池内 恵(Satoshi Ikeuchi)
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター准教授、アレクサンドリア大学(エジプト)客員教授などを経て、現職。専門はアラブ研究。著書に、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『[中東大混迷を解く]サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』『[中東大混迷を解く]シーア派とスンニ派』(ともに新潮社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など多数。

※当記事は「アステイオン94」からの転載記事です。
asteionlogo200.jpg


アステイオン94
 特集「再び『今、何が問題か』」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物7%急落、約3年ぶり安値で清算 中国が報復

ビジネス

トランプ氏、TikTok米事業売却期限をさらに75

ビジネス

パウエルFRB議長、早期退任改めて否定 「任期全う

ワールド

グリーンランドはデンマーク領であること望まず=米国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 5
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 6
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のク…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中