最新記事

米ロ会談

成果は乏しくとも「大成功」だった米ロ会談

What Biden and Putin Really Did

2021年6月21日(月)12時35分
フレッド・カプラン

対するプーチンは記者会見で「非常に建設的で偏りがなく、経験豊富」とバイデンを評価した。だが旧ソ連の情報機関KGBの元将校らしく、ソ連流のレトリックを駆使することも忘れなかった。

ロシアで起きている反体制派の投獄・殺害について問われた際、プーチンはグアンタナモ、および世界各地の刑務所での拷問を引き合いに出した。収監中のロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイを、今年1月に米連邦議会議事堂を襲撃した暴徒に例える場面もあった。

サイバー攻撃に関する質問に対しては、アメリカには大規模なサイバー攻撃プログラムがある(そのとおりだ)が、ロシアには存在しない(これは嘘だ)と回答した。

エネルギーパイプラインや上水道など、16の「重要インフラ」分野へのサイバー攻撃を違法化するための協議開催を提起したと、バイデンは記者会見で発言している。数年前から検討されている案だが、サイバー攻撃について基本的事実も認めないプーチンの態度を考えれば、協議が実現しても成果はないだろう。

優先事項でないロシア

実際のところ、バイデンはロシアに多くの時間を割きたくないと考えている。より関心が高いのは、敵対国としての中国の台頭を阻止すること。そして独裁的国家の脅威や挑戦を前に、民主主義国の力と協調を見せつけるためにも、アジアと欧州の同盟国との団結を図ることだ。

それでも、弱体化が進むとはいえ大国(で、近年は好戦姿勢を強める)ロシアは無視できない存在だ。ウクライナの主権や領土を侵害し、欧米諸国の分裂を図り、重要インフラをサイバー攻撃する同国には、何らかの対処をする必要があった。

バイデンは欧州歴訪中、少なくともこうした問題をアピールすることができた。6月14日に行われたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領との会談は長時間に及び、前向きなものだったという。これはトルコのNATO離れを狙ってきたプーチンに対抗する上で、とりわけ効果的だったのではないか。

ジュネーブでの会談によって、バイデンは要点を直接的に再表明し、土台作りを行うことができた。だが、何のための土台だろう? おそらくは将来的な協力体制のため。あるいは、将来的な危機に備えた接触ルートの確立だけが目標なのかもしれない。

筆者は米ロ首脳会談前日の記事で、両大統領が何らかの協議の開始を宣言するだけで十分な進展だと指摘した。そういう意味で、確かに「進展」は十分にあった。

©2021 The Slate Group

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン

ワールド

中国のハッカー、米国との衝突に備える=米サイバー当

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中