最新記事

会見拒否問題

大坂なおみの「うつ」告白にメディア・企業がエール 会見はもはや機能していないとの声も

2021年6月9日(水)17時50分
青葉やまと

勇気を持って発信したその誠実なメッセージが彼女への視線を一変させた...... (写真は2021年2月) REUTERS/Jaimi Joy

<率直なメンタルの告白が各所で反響を呼び、選手に負荷をかけるインタビューの意義が問われている>

全仏オープンでの会見拒否が議論を呼んだ大坂なおみ。当初は「短気」「高慢なプリンセス」などと批判にさらされたが、メンタルの問題をていねいな言葉で告白したことで、世界のメディアや各スポーツのプロなどから温かいエールが殺到している。現在、ウィンブルドン前哨戦を前にした休養宣言で今後の動向が注視されているが、それでも彼女への温かい言葉は絶えない。

きっかけは5月27日の宣言だ。大坂は選手の精神状態を大会が無視していると述べ、全仏の記者会見に参加しない意向を表明した。30日の1回戦で勝利するも、予告通り会見を拒絶したことで、大会側は日本円にして約165万円の罰金を適用。グランドスラム4大会の主催者は、「選手がメディアに対応する責任」は大会参加者の「中核的要素」であるとする共同声明を発表し、今後の動きをけん制した。混乱を望まない大坂は、この時点で全仏を棄権している。

誠実な経緯の説明で「気難しい」の汚名を払拭

当初、大坂に対する世間の反応は辛らつだった。ワシントン・ポスト紙は、「大坂は全仏棄権の決断をしたことで、保守メディアから『気難しい』『(高慢な)歌姫』と呼ばれるようになった」と伝えている。

しかし、大坂がSNSへの投稿を通じて自身の心境をていねいに説明したことで、彼女の心境に寄り添う温かい声が寄せられるようになる。投稿で大坂は、大会を妨げる意図はなかったと述べ、タイミングよく説明を行えなかったことに謝意を表明した。そのうえで、「実は2018年の全米オープン以来、うつ症状に長く悩まされており、この状態で生活するのは楽なことではありませんでした」と明かしている。

社交不安を抱えながらメディア対応をこなすのは容易でない。大坂によると大会後の会見であれば問題ないが、負担の大きい大会期間中にインタビューを強いるルールは「非常に時代遅れになっていると感じられ」たため、事前に会見拒否を大会側に通知したのだという。真摯に心境を綴った投稿を受け、四大大会は態度を軟化。選手に必要なサポートがあれば行っていきたいとの声明を発表した。

インタビュー対応は選手の責務とされるが、そこに顕著な効果はあるのか

図らずも大坂の行動は、競技環境の改善に一石を投じた。ロサンゼルス・タイムズ紙は、うつを障害として捉え、障害があってもプレーできるよう制度の改善をすべきだと訴える。大坂は大会後の会見であれば問題なくこなせると述べている。一律にルールを適用するのではなく、選手の特性に応じた対応も今後は求められるだろう。

もちろん、大会側にも事情はある。人気選手のメディア露出は、競技への注目度を高めるために非常に重要だ。とくに四大大会ともなれば巨額の賞金を用意しているが、そこにはメディア対応の手当てが実質的に含まれているとの議論もあるだろう。今回の会見拒否については、職務放棄だとする厳しい批判が出ているのも確かだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売は年内1700万台に、石油需要はさらに

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中