大坂なおみの「うつ」告白にメディア・企業がエール 会見はもはや機能していないとの声も
一方で、選手に負担の高い記者会見はそもそも効果的なやり方ではない、とする意見もある。英ガーディアン紙は、これまで選手たちにインタビューを行ってきたスポーツ・ジャーナリストによる記事を掲載している。
この記者は記事のなかで、インタビューという慣習の広告塔としての効果が、選手への負担と釣り合っていないと認めている。「決められた時間にテニスをプレーする」ことが最大の広告塔であり、会見で「窓のない部屋に座らされ、部屋いっぱいの中年男性に向けて自身を表現する」ことは無用だと、これまで会見に望んできたスポーツ記者自身が認める内容だ。
さらに近年はSNSを通じ、選手自身がファンにダイレクトに心境を伝えることが可能になった。ニューヨーク・タイムズ紙は、インスタ全盛の現代において、インタビュー制度が時代遅れの代物になってきていると見る。
会見というしくみそのものに疑問を抱いた大坂は会見を辞退し、通常ならば質問を投げかける側であるはずの記者たちに対し、インタビューの意義を思いがけず根源から問い返す結果となった。
少なくともスポンサーとの関係を傷つける結果にはならなかった
別の視点としては、テニスが興行イベントである限り、スポンサーの利益を損なうべきではないとの意見もあるだろう。しかし今回の顛末に関し、後援各社の反応は温かい。ナイキは大坂を「清々しいほど正直」だと述べ、「私たちはなおみを応援しています」「メンタルヘルスの体験を公言した彼女の勇気を評価しており、彼女を支援してゆきます」と表明している。
コンサルティング企業のメタフォース社はカナダ最大の民放局「CTV」対し、うつを公言した大坂は注目すべき発言者となっており、スポンサー企業にとっての価値をむしろ高めたと語っている。
同社は、勝ち進むことで価値を証明するアスリートは世に溢れているが、人格こそが「至高のブランド・アンバサダー」を形成するのだと指摘する。「メンタルヘルスの問題は、テニスの勝敗云々よりももっと大きなもの」だとも指摘し、大坂の発言はスポンサーにとってプラスに作用していると分析する。
当初こそ不遜な態度だとの誤解を生んでいた大坂だが、勇気を持って発信したその誠実なメッセージが彼女への視線を一変させた。その声はやがて、長年必要だと信じられてきたインタビューの慣習を変革し、選手がより良い精神状態でプレーできるような環境の実現につながってゆくのかもしれない。