最新記事

石油

インドネシア、中国・イランのタンカー摘発 経済制裁逃れの石油「瀬取り」か

2021年5月27日(木)19時56分
大塚智彦

BAKAMLAでは、いずれかのタンカーから相手のタンカーに積み荷の石油を移送する「瀬取り」の途中だったとみているが、どちらからどちらへ石油の移送が行われたか、行われる予定だったかに関しては明らかにしていない。こうした詳細が語られないことについては、インドネシア側が中国に対して配慮し、曖昧なまま処理したとみられている。

中国人船長の「MTフレア」号は中国上海にある会社(上海フーチャ―・シップ・マネイジメント)が所有、運用していることが明らかになっている。

同船には中国人乗組員25人、イラン人船長の「MTホース」には30人のイラン人船員が乗り組んでいたがすでに全員が強制退去処分を受けて帰国しており、両船長だけが訴追されていた。

弁護士によるとイラン人のメディ被告は「石油移送の件は知らない」と瀬取りへの関与を全面的に否定していたが、インドネシア領海への不法侵入を問われた容疑だったことから判決を受け入れたとしている。

メディ被告にはインドネシアのイラン大使館から派遣された館員が公判中付き添い、全面的に支援しており、判決後の身元引き受けも行うものとみられている。

今回の瀬取りは氷山の一角?

「瀬取り」に関わったとされる両タンカーは依然としてバタム島沖合に係留された状態で、今後の取り扱いについては未定という。

両タンカーの拿捕、捜査にあたったBAKAMLAなどによると、米国などによるイランへの経済制裁でイランは自国生産の石油を輸出する相手が不足し、慢性的な「石油余り」の状態に陥っているという。

このため制裁に関係していない中国がイランから石油受け入れを行っている可能性が高く、インドネシア周辺海域でも頻繁に行われている可能性があり「今回の摘発は氷山の一角に過ぎない」とみている。

経済制裁下のイランが石油を必要とする中国に対して「密かに石油輸出」をしている疑念が改めて深まったといえる。ただ中国の民間企業が独自に行っている「瀬取り」なのか習近平政権による「お墨付き」の方針なのかは現段階では明らかになっていない。

このため、BAKAMLAでは今後は海軍などと共同して周辺海域での中国関連船舶やAISを「故障していた」などと主張して意図的にオフにして航行している船舶などへの警戒監視を強める方針を改めて確認している。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係

ビジネス

ウーバー第1四半期、予想外の純損失 株価9%安

ビジネス

NYタイムズ、1─3月売上高が予想上回る デジタル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中