インドネシア、中国・イランのタンカー摘発 経済制裁逃れの石油「瀬取り」か
BAKAMLAでは、いずれかのタンカーから相手のタンカーに積み荷の石油を移送する「瀬取り」の途中だったとみているが、どちらからどちらへ石油の移送が行われたか、行われる予定だったかに関しては明らかにしていない。こうした詳細が語られないことについては、インドネシア側が中国に対して配慮し、曖昧なまま処理したとみられている。
中国人船長の「MTフレア」号は中国上海にある会社(上海フーチャ―・シップ・マネイジメント)が所有、運用していることが明らかになっている。
同船には中国人乗組員25人、イラン人船長の「MTホース」には30人のイラン人船員が乗り組んでいたがすでに全員が強制退去処分を受けて帰国しており、両船長だけが訴追されていた。
弁護士によるとイラン人のメディ被告は「石油移送の件は知らない」と瀬取りへの関与を全面的に否定していたが、インドネシア領海への不法侵入を問われた容疑だったことから判決を受け入れたとしている。
メディ被告にはインドネシアのイラン大使館から派遣された館員が公判中付き添い、全面的に支援しており、判決後の身元引き受けも行うものとみられている。
今回の瀬取りは氷山の一角?
「瀬取り」に関わったとされる両タンカーは依然としてバタム島沖合に係留された状態で、今後の取り扱いについては未定という。
両タンカーの拿捕、捜査にあたったBAKAMLAなどによると、米国などによるイランへの経済制裁でイランは自国生産の石油を輸出する相手が不足し、慢性的な「石油余り」の状態に陥っているという。
このため制裁に関係していない中国がイランから石油受け入れを行っている可能性が高く、インドネシア周辺海域でも頻繁に行われている可能性があり「今回の摘発は氷山の一角に過ぎない」とみている。
経済制裁下のイランが石油を必要とする中国に対して「密かに石油輸出」をしている疑念が改めて深まったといえる。ただ中国の民間企業が独自に行っている「瀬取り」なのか習近平政権による「お墨付き」の方針なのかは現段階では明らかになっていない。
このため、BAKAMLAでは今後は海軍などと共同して周辺海域での中国関連船舶やAISを「故障していた」などと主張して意図的にオフにして航行している船舶などへの警戒監視を強める方針を改めて確認している。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など