市民の「殺害事件」を繰り返すアメリカ警察は、どんな教育で生まれるのか
“ANYONE CAN KILL YOU AT ANY TIME”
警察学校の卒業式で宣誓す る新人警察官たち(ニュー ヨーク、2018年) DREW ANGERER/GETTY IMAGES
<地域社会と市民を守りたくて警察官を志したはずの善良な人々は、いかにして組織内の教育で「変身」するか>
警察官の人格はいかにして形成されるのか。それを、理屈ではなく体で感じ取りたい。アメリカの首都ワシントン郊外にあるジョージタウン大学の法学教授ローザ・ブルックスはそう思い、2015年に首都の予備警察隊に志願し、その「沈黙の青い壁」の内側に飛び込んだ。
そこで見聞きし、考えたことを、彼女は新著『青い制服にこんがらがって(Tangled Up in Blue)』(ペンギン・プレス刊)にまとめた。この本には、いま議論の的になっている警察活動の問題が組織の体質、とりわけ警察官の養成課程に深く根差していることが詳述されている。
警察官の過剰な暴力で、「容疑者」とされる市民が命を落とす事態は後を絶たない。多くの人が抗議しても止まらない。なぜなのか。以下では、彼女の著書から訓練生が警察学校で何を教わり、それが警察官の勤務中の行動にどんな影響をもたらしているかを論じた部分を紹介する。
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「誰だって君たちを殺せる、いつでもな」。それが警察学校で教わった最高に重いメッセージ。君が警察官なら、いつ誰に殺されてもおかしくないぞという警告だ。
もちろん教科書には載ってないが、教官の語るエピソードや繰り返し見せられたビデオで、ぐさりと胸に突き刺さった言葉だ。警察官が襲われ、ぼこぼこにされ、殺される映像を、受講生の私たちは何度も何度も食い入るように見つめた。そして思った。
この世は警察官にとって危険な場所、刺されたり撃たれたり殴られたり蹴られたり、車にひかれたり川に放り込まれたり、毒を盛られたり猛犬にかみつかれたりする。
「警察官の身の安全」を守るためのビデオだと、教官は言った。だから休み時間や、次の講義までの空き時間に、自分のパソコンやタブレットで見ておくように言われた。ネット上のビデオクリップを片っ端から再生したがる子供のように、私たち受講生もそんな動画のURLを互いに教え合った。
警察官が殺される状況は山ほどあることを、私たちは知った。ただの交通規制をしていた警察官が、後部座席の色の濃いガラスに隠れて見えなかったイカれ男に銃撃されるシーン。立ち往生したトラックに駆け寄った警察官たちが猛毒のガスを吸って倒れるシーン。事故車の運転手を助けようとした警察官が別の車にはねられるシーン。