最新記事

事件

メキシコ、血塗られた選挙戦 昨秋から関係者85人が命落とす

2021年5月31日(月)18時40分
選挙候補者のトラックが襲撃された現場を調べるメキシコの鑑識担当者

今月、街頭で選挙運動のチラシを配っていたアベル・ムリエータ候補は、白昼堂々、至近距離から射殺された。メキシコでは近年では指折りの血なまぐさい選挙戦が展開されており、候補者が殺害される例はこれが初めてではない。写真はミチョアカン州モレリアで8日、別の候補者のトラックが襲撃された現場を調べる鑑識担当者(2021年 ロイター)

今月、街頭で選挙運動のチラシを配っていたアベル・ムリエータ候補は、白昼堂々、至近距離から射殺された。メキシコでは近年では指折りの血なまぐさい選挙戦が展開されており、候補者が殺害される例はこれが初めてではない。

死亡したムリエータ候補は、6月6日に行われる中間選挙に向け、メキシコ北部ソノラ州にあるシウダード・オブレゴン市の市長に立候補していた。シウダード・オブレゴンはアルバロ・オブレゴン元大統領にちなんで名付けられた都市だが、オブレゴン氏自身も2期目の大統領職に就く直前の1928年に銃撃により暗殺されている。

セキュリティ関連のコンサルタント会社エテレクトによれば、ソノラ州の元司法長官であるムリエータ氏は「83人目」だ。昨年9月以降にメキシコで殺害された政治関係者の数である。その後、さらに2人が殺害された。

相次ぐ流血事件は、ギャングによる暴力の激化をアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール大統領が封じ込めきれずにいることを示しており、選挙情勢においても、一時は圧倒的だった与党・左派「国家再生運動(MORENA)」の優位が揺らぎ始めている。

ロペスオブラドール大統領は今週、「候補者、指導者が脅迫を受け、時にはカヘメの候補者の件のように不幸にも殺害されている状況を常に注視している」として、ムリエータ氏にも言及した。

今回の選挙では、連邦下院議員、15州の知事、そして何百もの市で市議会議員が選出される。

MORENAと連立与党は、下院での過半数を確保するリードを辛うじて保っているが、ロペスオブラドール大統領が狙う、エネルギーの国家管理を可能にする憲法改正に必要な3分の2の議席を確保する見通しは日に日に薄れつつある。

エテレクトによれば、前回の中間選挙が行われた2015年に比べ、政治関係者の暗殺事件は3割以上も増えている(前回は9カ月間で61人が犠牲になった)。犠牲者には各政党の党員、立候補者、公職経験者が含まれる。

ロペスオブラドール大統領は犠牲者のために公正な裁きが行われることを約束し、過去の政権の汚職の悪影響が国内の暴力を激化させていると主張している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

為替円安、今の段階では「マイナス面が懸念される」=

ワールド

中国、台湾総統就任式への日本議員出席に抗議

ビジネス

米天然ガス大手チェサピーク、人員削減開始 石油資産

ビジネス

投入財の供給網改善傾向が停滞、新たな指数を基に米N
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中