セクシーで気さくな名優が巡るイタリア旅番組 コロナ禍でも納得の大人気
In Italy With Stanley Tucci
コロナ禍は見ないふり
エピソードのうち4つはパンデミック以前に収録されているが、第1回と第3回は感染流行第1波の収束後に撮影された。初回の冒頭のコメントで、ロックダウン(都市封鎖)が終わったばかりとは思えないにぎわいだと、トゥッチは発言する。当時は「飲食店は営業中で、戸外でのマスク着用は義務付けられていない」状況だった。
新型コロナに対する予防意識のレベルによっては、第1回と第3回にちょっとばかり違和感を覚える視聴者もいるかもしれない。マスク姿も登場するが、常時着けていることはなく、なかには口しか覆っていない人も。トゥッチと地元のガイド役は(もちろん番組スタッフも)食事のために、時にマスクなしで密なスペースに集っている。
輪を掛けて奇妙なのは、イタリアが初期の流行中心地の1つだったにもかかわらず、冒頭のトゥッチのコメントを除けば、パンデミックの影響をめぐる会話がほとんどないことだ。番組はコミュニティーという概念に関心を寄せるが、取材対象である地元社会が負った傷を深く掘り下げることには興味を示さない。
ただし、公平を期して言えば、大半のCNN視聴者にとっては歓迎すべき息抜きかもしれない。ひっきりなしに続く新型コロナ関連のニュースを一休みできるのだから。
セレブシェフで、人気グルメ番組の案内役だったアンソニー・ボーデインが2018年に亡くなって以来、後釜を狙う試みはあるものの、その穴を完璧に埋める人物はまだ現れていない。
ボーデインは熟練した料理人であり、各国料理の専門家だった。トゥッチは順当な後継者ではないかもしれないが、『イタリアを探して』には独特の強みがある。
トゥッチを見るのは目のごちそうだ。とりわけ、ズッキーニのパスタをはじめとする数々の美味を、羨ましいほどの情熱を込めて食する姿は素晴らしい。そして多くの場合、そのおいしさをちゃめっ気のある笑顔で伝えてくれる。
トゥッチならではの魅力に心地よく酔うかと思えば、コロナ危機が終わっていないことにも再び気付かされる。浮き沈みの激しいジェットコースター的感覚が拭えない番組だが、それでも現実逃避はたっぷり味わえる。
視聴者の食い付きは最高のようだ。CNNは先日、『イタリアを探して』がケーブルニュース各局の同時間帯番組のうち、視聴者数1位を記録したと発表した。成功ぶりを考えれば、第2シーズンの制作が早々に決まったのは不思議ではない(来年放送予定)。
再び旅行が可能になったとき、この手の番組にこれほど食指が動くかは分からない。とはいえ当分の間は、トゥッチが私たちの欲望を満たしてくれそうだ。
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