セクシーで気さくな名優が巡るイタリア旅番組 コロナ禍でも納得の大人気
In Italy With Stanley Tucci
イタリア系のトゥッチが6つの地域の美味を魅力たっぷりに紹介 ERNEST RUSCIOーGETTY IMAGESーSLATE
<アメリカの名優スタンリー・トゥッチが案内するCNNの「食紀行」番組は、パンデミックただ中の今にぴったり>
粋なスーツにサングラス姿で、車やバイクが行き交うナポリの街中をさっそうと歩くスタンリー・トゥッチ──。
CNNのドキュメンタリーシリーズ『スタンリー・トゥッチ イタリアを探して』は、幕開けから番組の魅力がたっぷり伝わってくる。
トゥッチといえば、親しみやすさを失わずにセックスシンボルのイメージを手にしたアメリカの俳優。食紀行番組の案内役にぴったりだ。彼となら、もちろんグラスを片手に食事を共にしてみたい。
2月14日に放送開始した『イタリアを探して』には、時に新型コロナウイルスの影が差し、現実に引き戻される瞬間もある。だが、トゥッチが優れた俳優でよだれが出るようないい男であるだけでなく、思慮深く魅力的な案内役であるのも明らかだ。
全6回の各エピソードでは、イタリアの異なる地域を取り上げる。第1回はナポリとアマルフィ海岸で、その後はローマ、ボローニャ、ミラノ、トスカーナ地方、シチリア島へ。どこへ行っても、トゥッチは地元住民や昔ながらの友人に珠玉の逸品を教えてくれるよう頼み、一味違う路線を目指して力を尽くす。
トゥッチが異色なのは、多くの食紀行番組の案内役と異なり、イタリア系アメリカ人とはいえイタリア食文化のエキスパートとはいえない点だ。カクテルのネグローニをめぐって、自信満々に大間違いを犯した過去もある(もっとも、トゥッチの前腕に見とれるあまり、そんなことには気付かないかもしれないが)。
トゥッチはほとんどあらゆるものを素直な驚きを持って受け入れる。道中で出会った人々にスポットライトを譲ることもいとわない。例えば、ローマの低所得層ユダヤ人コミュニティーと切り離せない料理、アーティチョークの揚げ物を看板にするユダヤ系シェフや、ナポリの活動家とロマ人女性らの協力関係から生まれた非営利のレストランだ。
番組のテーマが「何を、どう食べるか」だけでなく「なぜ食べるか」であるのは明らか。この問いこそ、良質な食番組のカギだ。
だが初回から、奇妙な感覚も付きまとう。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の渦中で、旅をして、誰かと出会って、人々と交じって食事をすることが必要条件の食紀行番組を制作し、視聴するなんて......。