飛行機内・ホテル廊下で感染連鎖、わずか85分の国内線でも:NZ調査
このうちCについては解析結果と座席配置より、Aから感染したものとほぼ確定している。AとBについてはゲノムに差がなく、どちらかが他方に感染させたのか、あるいは搭乗前にインド国内で共通の感染源から伝播したのか、現時点で特定できていない。いずれにせよ、機上で少なくとも1件の感染が起きていたことになる。
機内ではウイルス対策が取られており、感染は想定外だったことだろう。問題のチャーター便の搭乗率は35%ほどで、空席の方が多いという状態だ。また、安全を確保するため座席は間隔を空け、1列置きに指定されていた。機内ではマスクの着用が義務づけられ、さらに降機の際には10名ずつの小グループに分かれて互いに物理的に距離を取るという徹底ぶりだ。
静かに発生した感染に誰も気づかぬまま、同機はニュージーランド南島のクライストチャーチの街に降り立つ。一行はバスで政府指定のホテルへと向かい、そこで2週間の隔離生活に入った。
機上感染していたCは隔離後すぐのPCR検査では陰性だったが、隔離12日目に行った2回目の検査の時点で陽性反応を示している。すぐに他の宿泊者と離れた場所に移されたが、近くの客室で同じく隔離生活を送っていたDとEにウイルスが拡がる結果となった。
DとEは感染に気づかないまま、南島から北島のオークランドへと国内チャーター便で移動する。このとき、機内で二人の1席前に座っていたGを巻き込んでしまう。本アウトブレイクにおける、機上感染のさらなる例だ。D、E、Gが帰宅後に各家庭内でも感染が起こり、連鎖は全9名に拡大した。
Gが感染に至った国内便の飛行時間はわずか85分だ。短距離の国内便であっても感染リスクは残るということになる。
ホテル内感染のミステリー
昨年9月にこの一件がニュージーランドで報道されると、現地では感染事例として注目を集めると同時に、不可解なアウトブレイクだとしてにわかに話題となった。問題はホテルでの感染にまつわる部分だ。
ホテルでは前述のように、すでに国際線機内で感染していたCから、DとEがウイルスを受けた。DとEは親と乳幼児で、互いに同室している。しかし、Cの部屋とは別の宿泊室であり、本来ならばウイルスは及ばないはずだ。各部屋にはバスルームが備わっており、共用のシャワーあるいはトイレが感染源ということも考えにくい。どの部屋にもバルコニーはなく、両者が偶然同じタイミングで外気を吸ったということもあり得ないのだ。
翌月になってニュージーランド保健省は、苦し紛れの「ゴミ箱説」を発表した。安全のため清掃担当が客室に入れないことから、隔離中に出たゴミは、フロアごとに設けられたゴミ箱まで各自で持ち込む運用となっていた。このときCの直後にDまたはEがゴミ箱のフタに触れたことで、ウイルスをもらい受けたとの推論だ。
しかし、コロナウイルスは主に飛沫感染で拡がるとされているうえ、何らかの物証があってゴミ箱のフタが槍玉に上がったわけでもない。ニュージーランドのスタッフ誌は専門家にコメントを求めたうえで、保健省の説には「ごくわずかな可能性しかない」と切り捨てている。