最新記事

バイデン 2つの選択

バイデン政権はブルーカラーを失望させたオバマの過ちから学べるか

LEARNING FROM OBAMA’S FAILURES

2021年2月4日(木)18時30分
デービッド・シロタ(ジャーナリスト)

magSR210204_Obama2.jpg

ルーズベルトは大胆な政策を断行し、ファシズムの台頭に打ち勝った BETTMANN/GETTY IMAGES

ウォール街には厳しい措置を取ると言いつつ、金融危機を招いた銀行幹部の法的責任を問おうとはしなかったし、金融機関に不良債権処理を強いることも、最大手の金融機関を分割することも拒んだ。

さらには「過去にとらわれず、未来に進むべきだという信念」から、前政権がイラク侵攻を正当化するために虚偽情報を流した疑惑や、テロ容疑者に拷問を加えた疑惑に事実上、ふたをしてしまった。

民主党に失望したブルーカラー

それでもリベラル派のオバマ愛は冷めなかった。民主党左派の議員はオバマ政権に自分たちの政策課題を踏みつぶされても、自党の政権を批判することにはためらいがあり、異議を唱えなかった。

共和党との融和路線を取り続けたオバマは、その努力が友情で報いられると期待していたのかもしれない。だが、いかんせん共和党議員がオバマの推す法案に賛成票を投じることはまれで、オバマを褒めることはさらにまれだった。しかも中間選挙で民主党は大敗。大胆な改革が実現する望みは完全に断たれた。

オバマが現状維持に徹し、金融危機で住宅価格が暴落してもウォール街の責任を問わなかったため、ローンを抱えて生活苦にあえぐ人々は民主党政権に失望。リベラルに裏切られた反動で多くの有権者がドナルド・トランプに望みを託した。

「民主党が労働者の党であり続けていたら、トランプが大統領になることはなかっただろう」と、カリフォルニア大学アーバイン校の政治学者、バーナード・グロフマン教授は最近メディアに語っている。「(オバマの)住宅危機への対処は、家を失った庶民ではなく、住宅ローン金融と関連する金融機関を救済するものだった。中間層と低所得層の賃金と所得が一向に上昇しない状況は、オバマ政権下でも続いた」

バイデンがオバマ政権の教訓に学ぶかは不明だ。彼は長年、予算削減を唱える財政タカ派だったが、ある時期からそれを捨てた。年金制度の拡充を訴え、コロナ禍であえぐ家計を支援するため2000ドルの現金給付案も認め、最近では「財政赤字が拡大しても、政府が巨額の投資を行い、経済成長を後押しする」とまで言いだした。

一方で、それと正反対のこともやっている。当初は民主党に、現金給付なしの景気対策案を認めさせようとした。さらにトランプ支持者らが連邦議会に乱入した事件で共和党が大打撃を受けた8日後、共和党に救いの手を差し伸べ、(法案成立には共和党の合意は不要なのに)政権発足後に最初に打ち出す景気対策に共和党の要求も盛り込む意向を示した。

バイデンには共和党に気を使って大胆な改革案を引っ込める一面がある。彼は以前トランプが去れば、共和党は民主党と協調すると希望的観測を述べていた。トランプ政権の権力乱用の数々を調査する気はないと語ったとも伝えられ、「私たちは共和党を必要としている」と主張。共和党議員に「公の場で恥をかかせるようなことはしない」とまで誓った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中