最新記事

ISSUES 2021

「現代版スターリン主義者」習近平が踏み出した相互不信と敵意の道

CHINA’S FATEFUL YEAR

2021年1月15日(金)17時40分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

magSR210115_Xi2.jpg

2019年の民主化デモで警察に暴行される香港市民 TYRONE SIU-REUTERS

いとも簡単に「一国二制度」の国際公約を破ることで、中国は自らの国際的信用を毀損した。西側諸国はもはや習政権を信用できない。この事実は重く、その影響は長く続くはずだ。

新型コロナの危機と、香港における弾圧。この2つが米中関係を大きく損ねた。

トランプの方向転換

もちろん、トランプの始めた貿易戦争で米中関係は2018年半ばから悪化していた。それでも2020年の1月には、双方が新規の敵対的行為を発動しない(ただし、既にアメリカが中国製品に課している関税の大半は撤廃しない)とする「第1段階」の貿易合意ができていた。それに、秋に再選を控えるトランプが、さらに中国と敵対してアメリカ経済に打撃を与えるようなことをするとは思えなかった。

ところが、両国の確執は2020年の春に全面的な冷戦にまでエスカレートした。自国におけるコロナ危機への対応に失敗したトランプ政権の迷走が始まったからだ。

自分の失態を隠したいトランプは中国を悪者に仕立てることにし、政権内のタカ派に対中制裁の自由裁量権を与えた。そんな状況で、習は香港に国家安全維持法を導入した。これで中国嫌いのタカ派は勢いづいた。好戦的で信用できない新興独裁国家に立ち向かうために力を合わせようと、アメリカの同盟諸国を鼓舞するには最適の条件がそろったのだった。

結果、今の米中関係は全面的崩壊の寸前にある。トランプは大統領選で敗れたが、習の中国に対する警戒心はアメリカ政界の党派を超えて共有されている。民主党のジョー・バイデンが大統領になっても、米中関係がすぐに改善するとは思えない。バイデン政権で両国関係が4年前の状況に戻る可能性は、残念ながら低い。

かくして中国は、またも自らの政治的選択によって西側との関係を逆転させた。思えば1979年の鄧小平は、改革路線を選択して国際社会との実り豊かな関係を築いた。対して2020年の習近平はどうだったか。いつ終わるとも知れぬ対立の種をまいただけだ。

©Project Syndicate

<2020年12月29日/2021年1月5日号「ISSUES 2021」特集より>

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中