選挙無効からレイプ名誉棄損まで、トランプに保守派がノーを突き付ける
How the Courts Thwarted Donald Trump
大統領選関連の訴訟で、ビバス以外にもトランプの指名した判事がトランプ側の訴えを退けている。11月19日にはジョージア州のスティーブン・グリムバーグ連邦地裁判事(2019年にトランプが指名)が、選挙結果認定停止を求めたトランプ陣営の訴えを「確定済みの選挙結果を覆すことは前例がなく、さまざまな悪影響をもたらすだろう」として退けた。
「そのことは三権分立がいかに強固かを浮き彫りにする」とマレックは言う。
政治的配慮はあり得ない
ニューヨーク大学法科大学院のリチャード・エプステイン教授によれば、実際に判事の人選をしたのは司法システム内に保守派の法律家を増やすことを目指すシンクタンク、フェデラリスト協会だ。同協会が推薦する候補者をリストアップしていたという。
リストに掲載された候補者は「先入観にとらわれない知的誠実さを持ち、裁判官としての権力の行使を抑制し、私有財産権を重んじ、三権分立を守るべく全力を尽くす人々だった。彼らが政治的配慮をすると思うのは幻想だ。あり得ない」。
もう1つトランプの思惑が外れたのは、政敵のオバマやヒラリー・クリントン、バイデンの息子が司法省に訴追されていないことだ。これも司法の力によるところが大きいと弁護士のユセフザディは指摘する。「トランプ派が彼らを『投獄しろ』と連呼しても実現しないのは、司法省内に『これはおかしい、話にならない』と言える人々がいて、司法長官でさえ行き過ぎだと認識しているからだ」
皮肉にも、トランプの指名した保守派判事が結局は大統領の権限に歯止めをかけることになるだろう。
過去数十年、議会の膠着状態が続くなか、大統領が大統領令や政府機関が発した規則を政策立案に利用しようとするケースが増えている。2016年の共同書簡に署名したネブラスカ大学のガス・ハーウィッツ准教授(法律学)は、トランプが指名した判事たちが先頭に立って、そんな流れを覆そうとするはずだと考えている。彼ら保守派の判事は合衆国憲法を起草当初どおりに解釈し、三権分立の概念を特に重んじるからだ。
エプステインはトランプをめぐる懸念はどれも大げさだとみる。「ドナルド・トランプが裁判所命令に逆らったことがあっただろうか。答えはノーだ。独裁的で知的とは言い切れない面があるのは確かで、裁判で勝ったこともあれば負けたこともあるが、私の見る限り、口は悪いが実際の振る舞いははるかにましだ」
それでもユセフザディはトランプの下で司法制度がダメージを受けたことへの懸念を拭い切れずにいる。トランプは、自分ではフルに利用するだけの才覚がなかったにしても、未来の独裁者候補に法の抜け穴と弱点を示した。
「将来、たとえ司法省が大統領の意思に完全に屈しても、法廷は最後のとりでであり続けると思いたい」とユセフザディは言う。「だが過去4年間にいかに多くの規範が棚上げされてきたことか。それも、どちらかといえば無能な大統領によってだ。トランプよりはるかに一貫性を持って衝動的でない意思決定をする大統領が現れ、アメリカの司法制度を作り替え、攻撃したらと思うとぞっとする」
<2020年12月22日号掲載>
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