麻薬関与疑惑の町長、襲われ銃殺 フィリピン、3年で自治体幹部19人犠牲の恐怖
最近では2020年11月10日にはルソン島イロコス地方パンガシナンにある地元コミュニティーラジオ局のコメンテーターで週刊誌のコラムニストでもあったベテランジャーナリスト(62)が自宅前で射殺されている。
同事件の犯人は未だに逮捕されたとの報道はなく、犯行の理由もこのジャーナリストの政府に批判的なコメントやコラムに原因の可能性がある、という見方くらいしか分かっていないという。
ドゥテルテ大統領が政権についた2016年以来、殺害されたマスコミ関係者はこの事件で19人目となった。
副大統領が町長射殺を強く非難
今回のペレス町長射殺事件を重く見たレニ・ロブレド副大統領は6日、ラジオ番組に出演して「こうした殺人が日常化しているフィリピンの現状を憂う。犠牲者の家族に正義をもたらし、加害者に法の裁きを受けさせることができない現状は政府が国民を守ることができていないという状況である」と、ドゥテルテ政権、さらに捜査機関である警察を強く非難した。
そのうえで「市長や町長、裁判官、弁護士そしてメディア関係者などの殺害が普通になっている事態をどうして我々は許しているのだろうか。これでは同様の事件がさらに続くだけだ」として、徹底した捜査で加害者を逮捕することが、殺人の連鎖を断ち切ることに繋がるとの考えを強調した。
ドゥテルテ大統領の指示した麻薬関連事案の徹底的な捜査ではこれまでに46人の地方公共機関関係者が「関与濃厚者リスト」に名前が挙げられている。
リストに名前が挙がった大半の人物は関係を否定しているが、こうした人物が襲撃や殺害の対象になるケースも多く、当該人物の身辺保護が人権上から求められている。
今回射殺事件が起きた庁舎の正面入り口には夜間警備員が配置されていたが、ペレス町長が利用した裏口には当時警備員がいなかった。またペレス町長の身辺警護に当たっていたボディガードもいたが、犯人が庁舎裏口付近に駐車した車両の中から発砲したため、銃撃を防ぐことができなかった、と「インクワイアラー」は伝えている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など