母国に見捨てられたベトナム漁民200人 インドネシアで違法操業により拘留、コロナ理由に帰国手続きされず
収容施設の待遇も問題、と主張
さらに一部の収容漁民はタンジュンピナンの収容施設の劣悪な環境への不満も漏らしているという。「食事環境がひどく、古い米や生の米を食べざるを得ない状況が続いている。まともな食事は食堂で食べられるが代金を支払う必要があり、そんな現金は誰も所持していない」としている。
しかしこうした不満には海洋水産省の担当者が「そうした訴えは事実に反している。我々は人道的な処遇をしており、収容漁民の健康問題には特に配慮している」と反論。収容施設の待遇には人権上も問題はないとしている。
中国漁船は巧妙化、拿捕大半がベトナム
海洋水産省によると2020年に南シナ海南端などの海域でインドネシアの海洋権益が及ぶ排他的経済水域(EEZ)やインドネシア領海周辺などで不法に操業していてインドネシア当局に拿捕された外国漁船で最も多いのがベトナム漁船だという。
かつては中国漁船やマレーシア漁船、タイ漁船などもひんぱんに不法操業で拿捕され、見せしめとして乗員を陸上に移送した後で違法操業漁船を海上で爆破するというパフォーマンがニュースとなったこともあった。
しかしこうしたインドネシア政府の「強硬策」も担当大臣が交代したこともあり最近はかつてほどは実施されなくなっている。
また中国漁船は準軍事組織とされる武装した海警局船舶と行動を共にするなど巧妙化。結果として零細漁民によるベトナム小型漁船が拿捕されることが増加しているという。
漁民問題を国際社会に発信、送還促進へ
海洋水産省では引き続きベトナム大使館を通じてベトナム政府に非容疑者である199人のベトナム人漁民の送還手続きの迅速化を求めていく方針という。
一方、収容されている漁民代表らは「SNSなどを通じて我々が置かれている現状を広く周知することで関係各方面によるベトナム政府への働きかけが広がることを期待するとともに、一日も早い帰国を実現してほしい」として国際社会に問題提起することを計画していると「ブナ―ル・ニュース」は伝えている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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