インドネシア、現職閣僚が汚職容疑で逮捕 「牙抜かれた」政府の汚職捜査機関KPKが久びさの快挙
大統領「KPKを信頼」と表明、後任任命
身内の現職大臣が逮捕された事態を受けてジョコ・ウィドド大統領は直ちにエディ容疑者の後任海洋水産相としてルフト・パンジャイタン調整相(海事・投資担当)を臨時的に任命するとともに「KPKの捜査の成り行きを見守るが、KPKの信頼性、透明性、公正性を信じている」と述べて、KPKによる捜査を全面的に支持する姿勢を示した。
地元メディアなどによると、インドネシアで現職閣僚や前閣僚などの「大物」が逮捕された汚職事件は過去20年間に8件で、8人の現職閣僚、前閣僚が逮捕され、有罪判決を受けているという。
このうちスシロ・バンバン・ユドヨノ政権時代の2004年から2014年にかけては現職閣僚3人が逮捕され、うち2人はユドヨノ大統領率いる民主党の閣僚だった。
2017年12月にはゴルカル党のスティア・ノファント国会議長がKPKによって汚職容疑で逮捕され、禁固15年の有罪判決を受けて現在服役中だ。
こうした逮捕権、公訴権をも持つKPKの強大な権力に対して国会議員の間から「過大な権力を濫用している」との批判が高まり、上部監察機関の設置や権限縮小による弱体化の法案が2019年に提案され、採択、成立した。
新任のKPK委員長も元警察幹部が指名されるなどマスコミや国民からは「KPKは牙を抜かれた」と酷評されていた。
国防相と同じ政党で側近
今回逮捕されたエディ容疑者は2019年の大統領選で2期目を狙ったジョコ・ウィドド大統領と接戦を演じた「グリンドラ党」のプラボウォ・スビアント党首の側近で「グリンドラ党」の要職にも就いていた。
プラボウォ氏は大統領選において僅差で敗北した後、2期目のジョコ・ウィドド政権ではそれまでの野党の立場から与党に鞍替えして国防相の要職を得て現在は閣僚となっている。
プラボウォ国防相は2024年の次期大統領選での最有力候補ともいわれているが、今回のエディ容疑者の逮捕によりプラボウォ氏が党首を務める「グリンドラ党」に与える政治的ダメージも小さくないとみられ、今後の政局や大統領選などへの影響も懸念されている。
KPKは25日の会見で、エディ容疑者と妻が帰国直前の米ハワイで購入したとする複数の高級腕時計「ロレックス」と高級ブランドの女性用ハンドバックを公開し、同容疑者に渡った賄賂が使われた可能性を示した。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など