最新記事

米中関係

ヒューストンの中国総領事館はコロナ・ワクチンを盗もうとしていた?

Was China’s Houston Consulate Trying to Steal the Coronavirus Vaccine?

2020年7月27日(月)18時15分
ジャック・デッチ(米国防総省担当)、エイミー・マッキノン

世界最大の医療集積地ヒューストンで中国スパイたちは何を狙っていたのか(写真は閉鎖前の中国総領事館) Adrees Latif-REUTERS

<コロナ・ワクチンの市場投入で一番乗りしようという中国の意図は明らかだった」と、ある米国務省高官は言う>

アメリカ国務省がテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命じた問題で、トランプ政権の複数の高官は7月24日、総領事館が産業スパイの拠点として使われていた可能性があるとの見方を示した。背景には、新型コロナウイルスのワクチンを世界に先駆けて市場投入したいという中国の野望があるという。

ヒューストンには世界最大の医療機関の集積地「テキサス医療センター」があり、大学などの研究機関も集まっている。米高官らによれば、総領事館は過去10年間に少なくとも50回にわたり、最先端の科学技術分野の優秀な専門家(およびその技術や研究成果)を世界中から集めるプロジェクト「千人計画」で中国人や外国人の研究者を勧誘するのにも使われたという。

近年、中国は科学技術の飛躍的な進歩を目指し、中国人や外国人の研究者を囲い込む作戦を組織的に進めてきた。ヒューストンの総領事館員は直接、研究者との連絡に携わり、収集すべき情報について指示を出していたと高官らは言う。

「2019年に新型コロナウイルスの流行が起きた際の中国の状況を鑑みるに、ワクチンの市場投入で一番乗りしようという中国の意図は明らかだった」と、ある米国務省高官は言う。医療研究機関が集まっているというヒューストンの「特殊性」もあった。ただし、中国がどういった機密情報を狙っていたかについては現時点では明らかになっていない。

24日、中国は報復として、四川省成都にある米総領事館の閉鎖を通知。27日に閉鎖した。

特に大胆なヒューストンのスパイ

米当局による中国のスパイ摘発は他でも行われており、同じ24日にはサンフランシスコ総領事館に潜伏していた中国人研究者で中国空軍の将校でもある人物が逮捕された。FBIはその数日前にも、中国軍の関係者であることを隠しビザを不正取得していたとして3人を逮捕している。

複数の米政府高官によれば、ヒューストンの総領事館は他の在外公館同様、長年にわたって中国の情報収集作戦の拠点として使われていた。だがアメリカの情報機関の高官によれば、ヒューストン周辺で科学技術分野の情報収集にあたっていたスパイたちは「特に大胆でしかも大きな成功を収めていた」という。FBIのクリストファー・レイ長官は今年7月、10時間に1件のペースで中国による新たなスパイ事件の捜査が始まっていると述べた。

<参考記事>中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消えていった
<参考記事>反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢となっている理由が明らかに

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジHD、純利益7割減 フジテレビ広告収入減で下方

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中