沖縄は日本で最も自尊心の低い地域、とこの本の著者は言う
沖縄には、しばしば問題から目を背けるために使われる「なんくるないさ」という言葉がある。本来は、マクトゥソーケーナンクルナイサ(人事を尽くして天命を待つ)という素晴らしい意味が、いつからか、「何もしなくてもOK」という意味でも使われるようになっている。現状維持は強力な麻酔として機能するため、虐げられ、苦しんでいる貧困層ほど、現状を肯定する。(147ページより)
それは「無感覚」になるということなのだろう。では、どうすれば自尊心を回復できるのだろうか? この問いに対して、著者は「その人の関心に関心を注ぐこと」が大切だと主張している。
「誰かと真につながっている」「自分は一人ではない」という感覚は、あらゆる人間の幸せにとって、決定的に欠かすことができない要素なのだ。
人が、つながりの感覚を取り戻すのは、自分の関心に関心を持ってくれる人との出会いによってである。
「自分のほんとうの気持ちをわかってくれる人がいる」と感じるとき、人は自分の価値を信じられるようになるからだ。
人生でそんな体験を「プレゼント」してくれる人との出会いほど、価値あるものはない。(172~173ページより)
確かにその通りだろう。だが、ここでひとつ気づくことがある。著者の言う「沖縄の問題」であるこの議論は、日本社会全体にも当てはまるということだ。同調圧力があるのは沖縄だけではなく、本土の社会にも画一を好む強い圧力は存在するのだから。
本書にあるように、沖縄が日本で最も自尊心の低い地域であることは疑いようもない事実なのだろう。だが忘れるべきでないのは、そもそも日本人が世界で最も自尊心の低い国民だということだ。
そういう意味で、沖縄問題は「日本問題」でもあるのだ。だからこそ、本土で暮らす私たちも、ウチナーンチュの気持ちを自分ごととして捉える必要があるのかもしれない。
沖縄の人にとっては、手厳しいことも書かれている。だが重要なポイントは、著者がただ闇雲に沖縄を非難しようとしているわけではないということだ。それどころか、厳しさの裏側にあるものは「愛」である。
人の関心に関心を持ち始めると、自分自身に対しても、真の関心が生まれるのだと思う。
「自分の人生で、心から、何よりも、大切にしたいことはなんだろう?」
私はこの問いに、40年間近い人生で初めて、真に、向き合ったのかもしれない。
私の答えは、愛だった。
それは、自分を愛し、真の自分を生き、真に人とつながるために必要な行動を、あらゆることに優先するということだ。(194ページより)
この部分に、著者が最終的に伝えたかったことの全てが凝縮されているように思う。
※本書については、著者・樋口耕太郎氏による寄稿もご参照ください。
・『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』は何の本か?(樋口耕太郎)
『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』
樋口耕太郎 著
光文社新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。