「有罪判決を受ける理由は...おまえが黒人だから」冤罪で死刑囚となった黒人の物語
そんなヒントン氏は、1986年12月15日に行われた裁判について、次のように記している。
あの判決はまさしく私刑(リンチ)だった。法的にではあったものの、リンチであることに変わりはなかった。私が懸命になって呑み込もうとし、どうか消えますようにと祈っていた怒りは沸騰し、いまにも爆発しそうだった。
私が犯した唯一の罪は、黒人に生まれたことだ。というより、アラバマ州で黒人として生まれたことだ。法廷に並んでいたのは、白人の顔ばかりだった――白い顔、顔、顔。板張りの壁、木製の調度品。法廷は荘厳で、威圧感があった。金持ちの邸宅の図書室に紛れ込んだ、招かれざる客になったような気がした。(18ページより)
この表現だけを見ても、ヒントン氏の冷静さや知性を感じ取ることができるのではないか。彼は母親から、決して肌の色や人種で人を判断してはならないと教えられて育っていた。
そのため逮捕、起訴され、有罪の判決を下されたときも、人種のせいだと考えないようにした。ところが、無実の貧乏な黒人より、罪を犯した金持ちを優遇するような司法制度の中で、彼に闘う手立てはなかった。
強盗容疑者として殺人罪で起訴されたヒントン氏に対し、アッカーという名の刑事が浴びせた言葉は強烈だ。「おまえがなにをしていようが、なにをしていなかろうが、関係ない。正直なところ、おれはな、おまえの仕業じゃないと思ってる。だが、そんなことはどうでもいいんだ。おまえがやってないのなら、おまえの兄弟のだれかがやったことになる。おまえは自分の責任じゃないのに罰を受けるんだよ」という言葉(これだけでもひどい話だが)に、こう続けたのだ。
「おまえが有罪判決を受ける理由を五つ、説明できるぞ。知りたいか?」
いやだと私は首を横に振ったけれど、彼はそのまま話しつづけた。
「その一、おまえが黒人だから。その二、ある白人がおまえに撃たれたと証言するはずだから。その三、この事件の担当が白人の地区検事だから。その四、裁判官も白人だから。その五、陪審員も全員、白人になるだろうから」
アッカーが言葉をとめ、にやりと笑った。
「で、どういう結末になるか、わかるか?」
私は首を横に振ったが、彼の言わんとしていることはわかっていた。南部で育った人間に、彼の言っていることがわからないはずがない。まるで真冬に氷のように冷たいシャワーを浴びたみたいに、全身が麻痺した。
「有罪。有罪。有罪。有罪。有罪」。アッカーは左手の指を一本ずつ上げ、五本の指を広げると、てのひらを私のほうに向けた。(98〜99ページより)
こうしてヒントン氏は投獄されることになった。死刑囚監房の近くには死刑執行室があり、会話を交わしたこともある50人以上の死刑囚がそこで処刑される音と匂いを感じながら、長い時間をそこで過ごした。