新型コロナウイルスで棚上げされた欧州難民危機
Refugee Lives on Hold
難民は入国前の待機も屋外で行うしかない(ギリシャのレスボス島) ELIAS MARCOU-REUTERS
<当局に居場所を知られるのが怖くて病院にも行けない──新しい国に渡っても別の深刻な問題が彼らを襲っている>
アフガニスタン難民であるエスマト・モハマディ(22)は、第2の故郷であるドイツ南部のシュツットガルトが新型コロナウイルスの危機に見舞われた際の状況に思わず苦笑した。スーパーマーケットは大混雑で、警備員が客を見張っている。「本当に戦争でも起こったら、この人たちはどうするのだろうと思った」と、数々の修羅場をくぐり抜けてきたモハマディは言う。
モハマディのような難民にとって、新型コロナウイルスの感染拡大には都合のいい部分もある。アフガニスタン人は難民集団としては世界最大規模であり、彼らは最近までドイツからたびたび本国に強制送還されていた。
だが現在、この措置は中止されている。人道的観点からではない。大きな理由は、航空便の大半が運休になったことだ。アフガニスタンも自国に新型コロナウイルスの問題を抱えているため、ドイツ政府に自国民の強制送還をやめるよう依頼した。
いまアフガニスタンの大部分の地域に、新型コロナウイルスの感染が広がっている。4月24日の時点で感染者は1350人以上、死者は43人とされるが、専門家のみるところ実際の人数ははるかに多い可能性がある。
一方で多くのアフガニスタン難民は、強制送還を一時的に免れても、自らの立場の弱さをこれまで以上に痛感している。医療サービスを受けることは、ほとんど期待できない。ドイツをはじめ主要ヨーロッパ諸国の医療制度が、限界に近づいているためだ。
国境なき医師団(MSF)によると、ヨーロッパにいる難民は特に新型コロナウイルスの影響を受けやすい。「彼らの多くは過密状態の宿泊施設で暮らしている」と、MSFの人道問題専門家オレリー・ポンテューは指摘する。「特にダブリン条約に基づいてEU内で最初に入国した国に送還される恐れがある不法移民や難民は、病院を受診すれば拘束されるのではないかという不安から、新型コロナウイルス感染症の疑いがあっても症状を報告しない可能性がある」
難民の大規模クラスター
ギリシャのレスボス島にあるモリア難民センターでは、混乱と絶望の中で1万9000人以上が足止めされている。彼らの大半はアフガニスタンやシリア、エリトリアなどのアフリカ・アジア諸国の出身者だ。このセンターは最大3000人を収容するために建設されたが、現状は目を覆うばかりだ。
ドイツの緑の党の議員で欧州議会議員のエリック・マルカルトは、レスボス島を何度か視察した。電話取材に応じた彼は「この島で起こっていることは、ドイツも含めたヨーロッパの恥だ」と語った。