新型コロナウイルスで棚上げされた欧州難民危機
Refugee Lives on Hold
移住管理に関する措置を取るにはそれなりに猶予期間が必要だと、MSFのポンテューは言う。各国は感染封じ込めに向けて協調し、移民・難民も対象に含めるために必要な措置を取るべきだという。メールによる取材にポンテューは「今でも移住問題が人々の健康と命より優先されている」と答えた。
2018年前半、ドイツにはアフガニスタン出身の難民が25万人以上いた。そのうち数万人は、それまでの数年間に入国した人々。その他は1980年代から90年代にやって来た。
モハマディがドイツに来たのは、2015年夏にヨーロッパで難民危機が始まった頃だった。シリアやアフガニスタン、イラク、アフリカ諸国から数十万人が、ドイツやオーストリア、フランス、スウェーデンなどを目指して殺到した。
バルカン半島を北上するルートをたどったモハマディは、ブルガリアとセルビア、ハンガリーで、不衛生で過密な難民キャンプに身を寄せていた。「本当にひどかった。あんな所に暮らしていたら、未来はない」と、彼は言う。
4月24日現在、ドイツで確認された新型コロナウイルスの感染者は15万4000人を超える。死者は5700人以上だ。ドイツ当局は医療崩壊を懸念している。
大半のEU諸国は、難民に対する支援に及び腰だ。ギリシャの難民キャンプには保護者のいない10代前半の子供たちが多く滞在しているが、このうち約1600人を受け入れるEUの計画に、ドイツはようやく参加を決めた。
4月18日には、第1陣の47人が到着。ドイツは約500人の受け入れに合意し、ルクセンブルクも既に12人を受け入れている。
だが緑の党のマルカルトに言わせれば、これは政治的な茶番でしかない。ドイツは10代の女の子の難民を中心に受け入れたい意向を示している(ギリシャの難民キャンプにいる若い難民の9割が男の子)。このグロテスクな方針は難民受け入れに反対する極右の見方に大きく影響されていると、マルカルトは言う。
難民たちの闇は、どこまでも深い。
<本誌2020年5月5日/12日号掲載>
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