最新記事

難民

新型コロナウイルスで棚上げされた欧州難民危機

Refugee Lives on Hold

2020年5月5日(火)10時50分
エムラン・フェロズ

移住管理に関する措置を取るにはそれなりに猶予期間が必要だと、MSFのポンテューは言う。各国は感染封じ込めに向けて協調し、移民・難民も対象に含めるために必要な措置を取るべきだという。メールによる取材にポンテューは「今でも移住問題が人々の健康と命より優先されている」と答えた。

2018年前半、ドイツにはアフガニスタン出身の難民が25万人以上いた。そのうち数万人は、それまでの数年間に入国した人々。その他は1980年代から90年代にやって来た。

モハマディがドイツに来たのは、2015年夏にヨーロッパで難民危機が始まった頃だった。シリアやアフガニスタン、イラク、アフリカ諸国から数十万人が、ドイツやオーストリア、フランス、スウェーデンなどを目指して殺到した。

バルカン半島を北上するルートをたどったモハマディは、ブルガリアとセルビア、ハンガリーで、不衛生で過密な難民キャンプに身を寄せていた。「本当にひどかった。あんな所に暮らしていたら、未来はない」と、彼は言う。

4月24日現在、ドイツで確認された新型コロナウイルスの感染者は15万4000人を超える。死者は5700人以上だ。ドイツ当局は医療崩壊を懸念している。

大半のEU諸国は、難民に対する支援に及び腰だ。ギリシャの難民キャンプには保護者のいない10代前半の子供たちが多く滞在しているが、このうち約1600人を受け入れるEUの計画に、ドイツはようやく参加を決めた。

4月18日には、第1陣の47人が到着。ドイツは約500人の受け入れに合意し、ルクセンブルクも既に12人を受け入れている。

だが緑の党のマルカルトに言わせれば、これは政治的な茶番でしかない。ドイツは10代の女の子の難民を中心に受け入れたい意向を示している(ギリシャの難民キャンプにいる若い難民の9割が男の子)。このグロテスクな方針は難民受け入れに反対する極右の見方に大きく影響されていると、マルカルトは言う。

難民たちの闇は、どこまでも深い。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年5月5日/12日号掲載>

【参考記事】ヨーロッパを再び襲う難民・移民危機
【参考記事】ヨーロッパの「感染ピーク越え」は幻想なのか

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中