新型コロナウイルス対策は公務員限定で給与減や帰省禁止? インドネシア、後手に回る政府の対応に批判の声
帰省で移動した場合、14日間の検疫を受けさせることも検討されている。 KOMPASTV / YouTube
<世界でもっとも多くのイスラム教徒を抱える国は、断食月明けの民族大移動による感染爆発をどう防ぐかに直面している>
新型コロナウイルスの感染者拡大に政府や地方自治体の対策が追いつかず、感染者数、死者数ともに上昇の一途をたどり、約9%という高い死亡率になっているインドネシア。危機的状況を緩和するための対策によって、国家公務員や地方公務員が「帰省禁止」や「給与カット」などの厳しい事態に直面しようとしている。
いずれもコロナウイルス対策に回す財源確保や、都市部から地方への感染拡散防止から取られる「公務員対策」だ。公務員だけが対象となっていることへの不満も出る一方で、民間企業の労働者などからは「税金で仕事をしている以上当然だ」という声があがるなど世論が二分される状況となっている。
民族大移動の長期休暇となる帰省
3月30日、チャヒヨ・クモロ国家行政改革相は5月25日前後に予定されるイスラム教徒の断食月明けの大祭である「レバラン」に伴う大型連休に国家公務員が実家などに帰省することを禁止する方針を明らかにした。
レバラン休暇は通常1週間から10日間という1年の中でも最大の長期休暇で人口約2億6000万人のインドネシア人の約2000万人が帰省(ムディックと称する)や旅行に出かけるのが通例の「民族大移動」とされ、日本で言えば「盆と正月が一度に来たような状況」となる。
公務員はもちろん民間企業の労働者も休暇となり、学校も外国企業も休業となる。人口の約88%を占めるイスラム教徒に限らず、全ての宗教の国民が休暇を取ることから、外国人の家庭で働く家政婦、運転手、警備員なども一斉に帰省する。このため、在留外国人もこの時期に国内外の旅行や母国への一時帰国をするケースが多く首都は閑散とする。
この時期の国内外の航空券、鉄道・長距離バスの乗車券はすでに半年前から売り切れ状態となっている。
ところが今年は新型コロナウイルスの感染拡大から、政府は「今年のムディックは帰省せず、現在の居住地で過ごすことが望ましい」と訴えている。しかし都市封鎖や外出禁止令といった強制力を伴う措置を講じていない現状では「帰省を禁止することは事実上不可能」との判断が政府部内でも強く、「それならばせめて国家公務員だけでも禁止しよう」となったとみられている。
ルフト・パンジャイタン調整相(海事投資担当)も4月2日に「ムディックはコロナウイルスを都市部から地方に拡散することになり、帰省先の実家などで家族や親せきに死者が出る可能性がある。だから今年は思いとどまってほしい」と民間企業の労働者や一般国民にも帰省による移動を控えるよう呼びかけている。
インドネシアの帰省で最も多いのが自家用車やバイクに複数人が乗って土産物などを満載した形での移動だが、これは主要道路や高速道路で検問を実施して監視する以外には防ぐことが実質的に不可能であり、「国家公務員に帰省を禁止したところでどこまで実効性が伴うかは疑問だ」との指摘もある。