「しつけか虐待か?」が不毛な議論である理由
「虐待」という言葉は、虐という漢字がもともと「虎が爪で引っ掻く」様子を表す文字からきていることからもわかるように、暴力的な、残虐な行為を想像させます。英語圏でも子ども虐待が社会問題となった当初は「child cruelty=子どもに対する残虐な行為」という言葉で表現していました。しかし、その行為の本質的な意味を「チャイルド・ファースト」の視点から表現すべきであるとされ「child abuse=子どもに対する大人の持つ力の濫用」という表現に変わります。現在では「child maltreatment=子どもに対する不適切な養育」とさらに広く虐待を捉えて、その対応が進んできています。(108〜109ページより)
また、子ども虐待対応は「child protection」や「child safeguarding」という言葉で表される。日本語なら「子どもを守る」「子どもの安心・安全を守る」ということになるのだ。
言い換えれば子ども虐待とは、「子どもの安心・安全が阻害された状況」だということ。そして子ども虐待対応は、「子どもの安心・安全を守る」ということになるのである。
危機対応が必要な子どもがいたら、保護して守ることはもちろん重要だ。とはいえ命に関わるような大きな怪我をするなど、突如として危機対応が必要になる状況がそう起こるわけではない。
例えば身体的虐待に関して言えば、まず言葉の暴力から始まり、軽く叩くようになり、徐々にエスカレートして痣(あざ)が残るような暴力となり、最終的に命に関わるような暴力へと発展していくことになる。
だからこそ、危機対応が必要になる前に、地域で支援的に予防していくことが重要なのである。そうでなければ、虐待そのものを減らすことにはつながらないからだ。
「通告」という言葉には告げ口のようなイメージがあるが、本来は困難な状況にある子どもとその家族を守るため、地域の支援につなぐもの。つまり、「子どもの安心・安全が守られているか?」に着目して早期に支援的対応を行うことが必要だということだ。
ここでご紹介したのは全体の中の一部分にすぎないが、それでも密度の濃さは想像していただけるのではないかと思う。問題が問題だけに、決して読みやすい本ではないかもしれない。しかし、大人として子どもたちを守っていくために、ぜひ目を通しておきたい一冊だと感じる。
『凍りついた瞳 2020――
虐待死をゼロにするための6つの考察と3つの物語』
椎名篤子 著
集英社
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。
2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。
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