サニブラウンが明かした「五輪延期」への決意
LET THE ATHLETES SPEAK
サニブラウンは2019年のドーハ世界陸上では決勝を逃した悔しさから、東京五輪に懸ける意気込みは大きかった Lucy Nicholson-REUTERS
<東京五輪の1年延期を受けて、陸上の日本記録保持者サニブラウンは何を思うのか。IOC(国際オリンピック委員会)のアスリート軽視の姿勢に翻弄される選手たちの苦境と本音に迫る。本誌4月14日号「ルポ 五輪延期」特集より>
東京五輪延期の知らせに、世界の多くの選手から安堵の声が出た。新型コロナウイルスが世界に蔓延し、3月に入り感染者、死者の数が日を追うごとに増加。欧米各国では練習場所の閉鎖、外出規制や禁止令が敷かれるなど、選手たちは非常事態に陥った。
彼らの声が「五輪まであと少しなのに、練習できない」から「感染したらどうしよう」に変わるまで、さほど時間はかからなかった。五輪の舞台よりも、自身や家族の健康、そして安全のほうが重要だ。
五輪延期のニュースに空虚感を感じつつも、好意的に、そして前向きに受け入れた選手のほうが多かった。それだけ彼らは追い詰められていたのだ。
「練習場所が見つからない」陸上男子100メートルの日本記録を持つサニブラウン・アブデル・ハキーム(21)も、新型コロナウイルスによる影響を肌で感じていた1人だ。
3月12日、米国の大学スポーツに大激震が走った。新型コロナウイルスの影響で、全米大学体育協会(NCAA)がトーナメントの真っ最中だったバスケットボールを含め、全ての大学スポーツの中止を発表した。バスケットのトーナメントは全米が熱狂する「マーチ・マッドネス(3月の狂乱)」と呼ばれる一大イベントで、中止になるのは史上初だ。
サニブラウンが拠点にする米フロリダ大学は授業をオンラインに移行し、スポーツ施設も閉鎖になった。「僕らはどうなるんですか」。そんな不安も抱えつつ、コーチたちが見つけてきた練習場所で練習を再開したが、翌週には「(使っていた)トラックが閉鎖になって、また練習場所がなくなっちゃいましたよ」と難しい状況に置かれた。
サニブラウン自身、明るく振る舞ってはいたが、その言葉の端々から不安が見え隠れしていた。米政府によるヨーロッパからの渡航者受け入れの禁止で、予定していた試合の中止や延期が相次ぐ。高校生の頃から小さなことには動じない性格のサニブラウンが「五輪どうなるんですかね」と、先の見えない状況に、感情を吐露することもあった。
延期の決定に驚きはなかった。むしろ先行きが見えない状況から抜け出し、すっきりしているように見えた。だから切り替えも早かった。
「去年はシーズンが長くて、ほとんど休みもなく五輪に向けたトレーニングをしていたので、 体のケアも含めてコーチと相談しながらやっていきたい。五輪も延期になったし、今のところ試合の予定もないですが、気持ちを引き締めてやっていかないといけないですね」