サニブラウンが明かした「五輪延期」への決意
LET THE ATHLETES SPEAK
五輪は特別かつ崇高──。そんな言葉をIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長はこれまで何度、免罪符のように使ってきたのだろう。しかし今回ばかりはそれは通用しなかった。
3月中旬にIOCと安倍晋三首相が予定どおり五輪を行うと発表すると、スポーツ界から反発の声が、SNS風に言うと「大炎上」した。バッハは選手たちがどんな犠牲を払っても、どんな状況でも五輪に参加すると考えていたのだろう。
しかし従順な「飼い犬」だったはずの選手たちは、この局面で牙をむいた。
ロンドン、リオ両五輪の陸上三段跳びを連覇したクリスチャン・テイラー(アメリカ)は、自ら代表を務める陸上選手ユニオンのネットワークを使い、世界各国の4000選手にアンケートを実施。78%が延期を希望し、87%が新型コロナウイルスの流行が五輪準備に悪影響を及ぼしている、という回答結果をIOCに送り付けた。
「満足に練習ができないから延期を希望したわけじゃない。世界各国の政府が『家にいろ』と言っているのに、僕たちがウイルスへの恐怖と闘いながら練習しなきゃいけない状況は間違っている。IOCは傲慢過ぎる」とテイラーは訴える。
IOCの延期決定に先立って、カナダやオーストラリアの五輪委員会などが、五輪が延期されない場合、参加を見合わせるという発表をした。
リオ五輪で50キロ競歩4位だったカナダのエバン・ダンフィーは「2月中旬頃から五輪開催は厳しいと感じていたので、カナダ五輪委員会の決断を誇らしく思った。スポーツ選手の前に僕らは『よい市民』でなければならない」と言う。
延期を好意的に受け止める選手が多いなか、競技引退や五輪挑戦を断念した選手も少なからず存在する。東京五輪後にプロ転向の意思を示していたあるアメリカのアマチュアボクシング選手は、延期を受けて今季中のプロ転向をほのめかしている。
ほかにも東京五輪まで現役を続行するかどうかは今季終了後に考えたい、と話すベテラン選手は多い。東京五輪までなんとか、と歯を食いしばってやってきた選手にとって、あと1年という数字は重くのしかかる。