最新記事

東京五輪

サニブラウンが明かした「五輪延期」への決意

LET THE ATHLETES SPEAK

2020年4月7日(火)17時00分
及川彩子(在米スポーツライター)

サニブラウンは2019年のドーハ世界陸上では決勝を逃した悔しさから、東京五輪に懸ける意気込みは大きかった Lucy Nicholson-REUTERS

<東京五輪の1年延期を受けて、陸上の日本記録保持者サニブラウンは何を思うのか。IOC(国際オリンピック委員会)のアスリート軽視の姿勢に翻弄される選手たちの苦境と本音に迫る。本誌4月14日号「ルポ 五輪延期」特集より>

東京五輪延期の知らせに、世界の多くの選手から安堵の声が出た。20200414issue_cover200.jpg新型コロナウイルスが世界に蔓延し、3月に入り感染者、死者の数が日を追うごとに増加。欧米各国では練習場所の閉鎖、外出規制や禁止令が敷かれるなど、選手たちは非常事態に陥った。

彼らの声が「五輪まであと少しなのに、練習できない」から「感染したらどうしよう」に変わるまで、さほど時間はかからなかった。五輪の舞台よりも、自身や家族の健康、そして安全のほうが重要だ。

五輪延期のニュースに空虚感を感じつつも、好意的に、そして前向きに受け入れた選手のほうが多かった。それだけ彼らは追い詰められていたのだ。

「練習場所が見つからない」陸上男子100メートルの日本記録を持つサニブラウン・アブデル・ハキーム(21)も、新型コロナウイルスによる影響を肌で感じていた1人だ。

3月12日、米国の大学スポーツに大激震が走った。新型コロナウイルスの影響で、全米大学体育協会(NCAA)がトーナメントの真っ最中だったバスケットボールを含め、全ての大学スポーツの中止を発表した。バスケットのトーナメントは全米が熱狂する「マーチ・マッドネス(3月の狂乱)」と呼ばれる一大イベントで、中止になるのは史上初だ。

サニブラウンが拠点にする米フロリダ大学は授業をオンラインに移行し、スポーツ施設も閉鎖になった。「僕らはどうなるんですか」。そんな不安も抱えつつ、コーチたちが見つけてきた練習場所で練習を再開したが、翌週には「(使っていた)トラックが閉鎖になって、また練習場所がなくなっちゃいましたよ」と難しい状況に置かれた。

サニブラウン自身、明るく振る舞ってはいたが、その言葉の端々から不安が見え隠れしていた。米政府によるヨーロッパからの渡航者受け入れの禁止で、予定していた試合の中止や延期が相次ぐ。高校生の頃から小さなことには動じない性格のサニブラウンが「五輪どうなるんですかね」と、先の見えない状況に、感情を吐露することもあった。

延期の決定に驚きはなかった。むしろ先行きが見えない状況から抜け出し、すっきりしているように見えた。だから切り替えも早かった。

「去年はシーズンが長くて、ほとんど休みもなく五輪に向けたトレーニングをしていたので、 体のケアも含めてコーチと相談しながらやっていきたい。五輪も延期になったし、今のところ試合の予定もないですが、気持ちを引き締めてやっていかないといけないですね」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏独英、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表

ワールド

ロ、ベラルーシに核搭載可能ミサイル配備 欧州全域へ

ワールド

ウクライナ、米軍駐留の可能性協議 ゼレンスキー氏「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中