新型コロナ流行の中、勝者は結局アメリカ? サウジ対ロシア原油戦争の行方
サウジアラビアとロシアの対立劇の陰の主役はアメリカのシェール産業 NICK OXFORD-REUTERS
<OPECの原油減産提案をロシアが拒否し、株式市場激震のもう1つの要因になった。生産量を増やして相場を下げ、コスト高が難点の米シェール業界を陥れる思惑だったが......>
世界の株式市場が大激震に見舞われている。その1つの要因は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大だが、もう1つの要因は原油相場の大混乱だ。
主要産油国のサウジアラビアとロシアが原油の減産に向けた協議で決裂して、原油相場が大幅に下落しているのだ。サウジアラビア主導のOPEC(石油輸出国機構)は、原油価格を維持するために減産措置を強化すべきだと主張していたが、ロシアはその提案を突っぱねた。
世界の産油国は近年、アメリカのシェール産業の台頭に神経をとがらせてきた。アメリカは「シェール革命」を経て、今では世界一の産油国になっている。そしてシェールオイル・ガスの増産を続け、世界の市場でシェアを着々と伸ばしてきた。
ロシアとしては、生産量を増やして原油相場を下げることにより、コスト高という弱点を抱えるアメリカのシェール産業に打撃を与えようという思惑だったのかもしれない。あるいは、自国の市場シェアを増やすことが狙いだった可能性もある。
ロシアとの交渉決裂を受けて、サウジアラビアは増産に転じる方針を表明。これにより、原油相場は急激に落ち込んだ。ウイルス流行により世界の経済活動が停滞し、原油需要が減っていることも、相場の下落に拍車を掛けている。
「(対立が収束するためには)双方が妥協しなくてはならない」と、米有力シンクタンクであるアトランティック・カウンシルの「グローバル・エネルギー・センター」で所長を務めるランドルフ・ベルは本誌に語る。
「状況打開の最初のチャンスは、6月のOPECプラス(OPECとロシアなど非加盟産油国で構成)の協議になる可能性が高いだろう。ただし、原油相場があまりに悪化した場合は、その前に動きがあるかもしれない」とベルは述べる。
新型コロナウイルスが経済にどのような影響を及ぼすかはまだ見えてこない。金融市場は既に打撃を受けているが、欧米の多くの国はまだ感染拡大の初期にすぎない。
中国で感染の封じ込めに成功しつつあるように見えるのは、せめてもの救いだ。しかし、原油需要は、ほかの国々の経済がどのくらい早く回復に向かうかに左右される。もし6月の時点でまだ需要が低迷していれば、サウジアラビアとロシアが歩み寄る可能性は高まるだろう。