最新記事

原油

新型コロナ流行の中、勝者は結局アメリカ? サウジ対ロシア原油戦争の行方

2020年3月16日(月)16時55分
デービッド・ブレナン

サウジアラビアとロシアの対立劇の陰の主役はアメリカのシェール産業 NICK OXFORD-REUTERS

<OPECの原油減産提案をロシアが拒否し、株式市場激震のもう1つの要因になった。生産量を増やして相場を下げ、コスト高が難点の米シェール業界を陥れる思惑だったが......>

世界の株式市場が大激震に見舞われている。その1つの要因は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大だが、もう1つの要因は原油相場の大混乱だ。

主要産油国のサウジアラビアとロシアが原油の減産に向けた協議で決裂して、原油相場が大幅に下落しているのだ。サウジアラビア主導のOPEC(石油輸出国機構)は、原油価格を維持するために減産措置を強化すべきだと主張していたが、ロシアはその提案を突っぱねた。

世界の産油国は近年、アメリカのシェール産業の台頭に神経をとがらせてきた。アメリカは「シェール革命」を経て、今では世界一の産油国になっている。そしてシェールオイル・ガスの増産を続け、世界の市場でシェアを着々と伸ばしてきた。

ロシアとしては、生産量を増やして原油相場を下げることにより、コスト高という弱点を抱えるアメリカのシェール産業に打撃を与えようという思惑だったのかもしれない。あるいは、自国の市場シェアを増やすことが狙いだった可能性もある。

ロシアとの交渉決裂を受けて、サウジアラビアは増産に転じる方針を表明。これにより、原油相場は急激に落ち込んだ。ウイルス流行により世界の経済活動が停滞し、原油需要が減っていることも、相場の下落に拍車を掛けている。

「(対立が収束するためには)双方が妥協しなくてはならない」と、米有力シンクタンクであるアトランティック・カウンシルの「グローバル・エネルギー・センター」で所長を務めるランドルフ・ベルは本誌に語る。

「状況打開の最初のチャンスは、6月のOPECプラス(OPECとロシアなど非加盟産油国で構成)の協議になる可能性が高いだろう。ただし、原油相場があまりに悪化した場合は、その前に動きがあるかもしれない」とベルは述べる。

新型コロナウイルスが経済にどのような影響を及ぼすかはまだ見えてこない。金融市場は既に打撃を受けているが、欧米の多くの国はまだ感染拡大の初期にすぎない。

中国で感染の封じ込めに成功しつつあるように見えるのは、せめてもの救いだ。しかし、原油需要は、ほかの国々の経済がどのくらい早く回復に向かうかに左右される。もし6月の時点でまだ需要が低迷していれば、サウジアラビアとロシアが歩み寄る可能性は高まるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中