最新記事

感染症対策

世界最大のイスラム教国に新型コロナウイルスの脅威 5月断食月明けの帰省禁止検討、インドネシア 

2020年3月30日(月)11時42分
大塚智彦(PanAsiaNews)

1カ月前までは感染ゼロを誇っていたインドネシアも今では首都ジャカルタで消毒剤が噴霧されるように。 Ajeng Dinar Ulfiana-REUTERS

<世界第4位という約2億6000万人の人口のうち約88%がイスラム教徒というインドネシアは、断食月が近づくにつれ感染症対策が課題に>

世界最大のイスラム教徒を擁する東南アジアの大国インドネシア。そのイスラム教徒が厳しい局面にさらされている。新型コロナウイルスの感染者は1日約100人のペースで急上昇、死者もそれにつれて増加。周辺国でも突出した8.84%前後の死亡率になり、敬虔なイスラム教徒の宗教生活にも深刻な影響をあたえようとしているのだ。

宗教指導者の副大統領、断食月明け休暇を中止の見解

4月23日前後から約1カ月続く断食月(プアサ)はイスラム教徒にとって重要な5つの義務(5行)「信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼」の一つでもある「断食」を行う一カ月に及ぶ重要な宗教的義務である。

期間中は日の出から日没まで一切の飲食、喫煙を断ち、厳格には唾をのみ込むこと、淫らな妄想を抱くことも禁忌とされている。そして1カ月に及ぶ断食が終わる5月23日前後から始まるのがレバラン(断食明け大祭)休暇というもので、日本のお盆と正月が一度に来たような長期休暇となる。

そのレバラン休暇の帰省を「ムディック」というが、3月26日にマアルフ・アミン副大統領が個人的見解と断りながらも「今年はムディックを禁止した方がいいと思う」と発言して大きな衝撃を国民に与えた。

マアルフ・アミン副大統領はイスラム教の指導者として絶対的な影響力があることから、その発言には単なる政府首脳の呼びかけ以上にイスラム聖職者の発言としての重みもあるためだ。

マアルフ・アミン副大統領は「帰省の途中や帰省後の故郷での家族らとの集まりを通してコロナウイルスが感染拡散する危険がある。危険があればそれを回避することも宗教者としては重要である」と述べ、今年に限っては故郷の家族や親戚、知人とは「ソーシャルネットワークを通じて交流すればいいではないか。帰省はまたいつでもできる」との見解を示したのだった。

半年以上前から航空券などが売り切れ

レバラン休暇は通常は1週間から10日前後に及ぶ長期の休みとなり、インドネシア人にとっては1年で最大の休暇であることから故郷へ帰省する国民、あるいは海外旅行に出かける富裕層など「民族大移動」の時期となる。

その数は約2000万人ともいわれ、この休みの前後の国内線航空便、鉄道、航路、長距離バスなどの切符は売り切れになり、道路も大渋滞となるのが通例だ。

官庁や民間企業も長期休暇となり、個人宅で働く運転手や女中、門番などイスラム教徒に限らず全ての国民が帰省することから、日本人駐在員を含む多くの外国人もこの時期に合わせて海外旅行や一時帰国をするため、国際線航空券もすでに半年以上前から売り切れ、空席待ちという状況が続いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領「中国との合意望む」、貿易戦争終結

ワールド

米ロ、2回目の外交協議 「使節の活動正常化に向け進

ワールド

米・ベトナム、互恵的貿易の公式協議開始で合意=米財

ワールド

日英首脳が電話会談、貿易障壁低減の必要性などで一致
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    「宮殿は我慢ならない」王室ジョークにも余裕の笑み…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中